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可愛い人
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ひと通りの任意聴取や診察を終えた日から半月の月日が流れた。
10月になり、辺りの道路は紅葉で彩られている。
俺は陸が登校したのを見送って、朝からレモンケーキを作っていた。
「美味そうじゃん」
「まだあげませんよ。すぐつまみ食いするんですから」
「なぁ、今日の夜は外食しねえ? すげー美味そうな店があんだよ。陸は婆さんとこだろ」
腰を抱き寄せられ平然を装うが、鼓動はうるさく鳴り始める。
俺の好きな匂いが漂うせいだ。
亮雅さんはそれを自覚しているに違いない。
「いい、ですけど。予約取れるんですか」
「予約はもう取ってある。どうせ予定もないしな」
「変な居酒屋とかだったら笑いますよ」
「おう、それもありだな。酒屋の個室にするか、その方がヤりたい放題だ」
「……出禁にされてください」
くくく、と笑いながら俺の肩に顔を埋めるから、心臓が破裂しそうになる。
亮雅さんのスキンシップが激しいことは今に始まったものじゃない。
だが、慣れないものは慣れない。
「もう1年以上経ってんのに、相変わらず心臓の音すげえな。俺の」
「っ、……いつも余裕な顔してるくせに」
「それは見せかけだ。優斗が自信ねえから他人の方がよく見えるだけだろ」
「それは、まぁ、そうですけど」
亮雅さんだって完璧な人間じゃない。
疲労が溜まれば倒れるし、ストレスが爆発することもある。
それを知って、随分と心が楽になった。
「……」
「どうしたんですか、今日」
亮雅さんは俺の頬に手で触れ、スリスリと滑らせる。
それがなんとなく心地よくて強請りそうになるが、恥ずかしさの方が勝って諦めた。
「椎名優斗って、可愛い名前だな」
「は、はぁっ? なにを今さら、わけ分からないこと言ってんですか!」
「松本優斗ってのもいいけど、俺は椎名も好きだよ。綺麗な名前だ」
「ッ…………それは、よかったですね」
「わっかりやす」
「! べつに嬉しくないですから。ドヤ顔しないでください」
焦って手元が狂いそうになる。
慌てて生地を型に流していれば、隣から笑い声が聞こえて赤面していく。
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