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❖錦上添花
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カフェでの昼食を終えて電波塔を後にした俺たちは、しばらくウィンドウショッピングを楽しんだ。
人生においてあまり外出する予定もなかった俺にはオシャレすぎて緊張したが、買わずに見て回るのも案外いいものだと知った。
だが、名店街を抜けて噴水公園にたどり着くと、亮雅さんにコートをかけられる。
「わ」
「優斗、俺のコート羽織ってろよ」
「え? どうしてですか。亮雅さんが寒い……」
「なんでもだ。俺は代謝いいから寒くねーの」
「……」
辺りを気にしながら言う亮雅さんに素直に従ったものの、理由はよく分からない。
ただ、俺の好きな香りが直に香って死にたくなってきた。
「俺のコート食うなよ?」
「なにバカなこと言ってんですか、俺は人間ですっ」
「ふっ、そんな物欲しそうな顔してんのが悪い」
「っ」
首からカッと熱を感じる。
そりゃあ俺だって……好きな男にコートをかけられて嬉しくないはずがない。
「陸がいたら嫉妬するな」
「俺だけ贔屓されてズルいって言いそうですね」
「あいつは相当ファザコンだからなぁ」
少し嬉しそうな亮雅さんを見ていると、俺は本当に幸せ者なんだと気付かされる。
可愛い子どももいて、男手ひとつでストイックに努力してきた彼氏もいて。
悲しい過去はあっても、選択肢が違えば出会えなかったんだ。
そう思ってしまえば過去の出来事も案外悪くないのかも。
「すみませーん」
「?」
トーンの高めな声に反応して顔を上げると、3人の女性が立っていた。
見たところ、同年代のようだ。
「はい?」
「あのー、もし空きでしたらお茶とかご一緒にどうですか? とっても美味しいカフェがあるんです」
ニコニコと笑顔で言った女性もその連れも、俺たちが友人同士か何かだと思ったらしい。
若干の気まずさを覚えたが、ここは丁重にお断りしようとした。
「悪いけどデート中なんだよね。諦めてくれ」
「っ」
俺の意思とは相容れない亮雅さんの冷たい声に女性たちは驚いた表情だ。
「すみませんでした!」と叫ぶように言って駆けていく姿を見ていると、少しだけソワソワする。
「……すごく、ビックリしてましたけど。あんなに冷たく言わなくても」
「前にも言ったろ? 上辺の優しさだけが大切じゃないって。時にはそれ相応の冷淡さも必要なんだよ」
「そう、なんですか」
「気づかなかったのか? 後ろにいた女、優斗のこと盗撮しようとしてたぞ」
「は? え、いつ?」
あまりの衝撃で声が上擦った。
亮雅さんは呆れたようにため息をつき、クシャクシャに髪をなでてくる。
「優斗を狙われんのだけはマジで勘弁」
「……すいません、全然気づきませんでした」
「なんで被害妄想は激しいってのに、色目使われてることには鈍感なんだ?」
「てっきり、亮雅さん狙いかと……」
「バカ言うんじゃねえ」
わざわざコートを貸してくれた理由がようやく分かった気がする。
同時に、無性に肩へ寄り添いたくなってなんとか持ち堪えた。
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