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アイドル声優になりませんか?
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「……キスしてくれたら起きる」
もう。仕方ねぇ奴!
俺は顔を緩ませたまま、未来の頬にキスをする。
「おはよ」
「……やだ。ほっぺじゃ起きない」
桜色の唇が、すねたように突き出された。
「ワガママだなー」
ちゅっと軽く唇を合わせた途端、未来は両腕で俺の首を抱き寄せる。
「んん?」
唇が触れ合ったまま、ごろんとひっくり返されて体勢が逆転した。
「……ん、」
未来は俺の上に乗って、好き放題キスをしてくる。俺も応じようと未来の細い腰に手を回そうとした瞬間……
「おはよ、蓮」
イタズラっ子のように微笑んで、未来はキスを止めた。
(おあずけ上手すぎ……)
今までだったら、この誘い水に乗っている。
このやろー、とか言って押し倒して、服を脱がせて。
けど。
(そうはいかないんだよ、今回は……!)
……もしかするとこの2年間のやり直しは、俺の理性との戦いなのかもしれない。
仕掛けてこない俺に未来はちょっぴり不満そうだったが、その後は素直に起きて事務所へ。まさか2日目にして昼から行くってわけにもいかないことくらいは、未来も分かってるんだ。
マネージャーが通るのを廊下で待っていると、ピンヒールの音が近付いて来た。
「おはようございます」
挨拶した俺の前で、都築マネージャーが立ち止まる。
「香月くん、ちょっといい?」
(あ、やべ)
前にもこれ、あったんだよね。
呼ばれたのは、事務所の会議室。そこにはすでに、チーフマネージャーの鴻上さんがソファの上であぐらをかいていた。
俺はとりあえず挨拶して、しげしげ眺められる視線を感じつつ、名前を言う。
「なるほどねぇ……。改めて見ると、都築マネージャーが推したい気持ちは分かるね」
「ですよね? 後は、本人の意思確認をして……」
「たださ、昨日入ったばっかりの新人でしょ? ボイサンひとつ出してないのに、オーディションにエントリーさせるの? 他にいない?」
ボイサンというのはボイスサンプルの略で、声優が『こんな声が出せてこんな演技やキャラができますよ』というのを見せるために、20〜30秒くらいの短いセリフなんかを録音したもののことを言う。
うちの事務所では、所属声優が持ってきたボイサンをマネージャーが聴いてくれる制度があって、それを参考に仕事を振ってくれたりする。
鴻上マネージャーの質問に次ぐ質問に、都築マネージャーはたった1センテンスで答えた。
「だって、うちの事務所でこれだけ真っ当に綺麗な顔の子、います?」
(おいおい……)
謝れ。今の言葉は、総勢百数十名の男性所属者に失礼だ。前も同じこと言ってたけど!
「香月くん、君を呼んだのは男性アイドルゲームのオーディションについてなんだけどさ」
「はい」
「やる? 歌って踊る感じのやつ。都築マネージャーは、君をオーディションに送りたいんだって」
(……前回は、断ったんだよな)
正直、アイドルとして売り出される「ドル売り」は嫌だった。
俺は身長も高いし、周りに言わせるとイケメンらしくて、自分でも派手な顔だって自覚はある。でも、俺がなりたいのはアイドルじゃなくて……実力派の声優なんだ。
ただ、俺は2年後を『変える』ためにここにいる。
だから、前回と同じ決断はしてはいけないんじゃないか。
「やってみます」
この一言から、違った2年後が開ける。そう信じて、俺は返事をした。
「蓮、お話何だった?」
帰りの電車、未来は聞きたくてたまらなかったという様子で尋ねてくる。
「オーディション受けろって」
「すごい! やっぱり蓮はすごいね」
恋人に尊敬されるのは、悪い気はしない。俺は、事務所で受け取った資料を封筒から出さずにチラ見する。
「げっ……。これ、羽田悠一郎の当たり役じゃねーか」
「どういうこと?」
「あ、いや。何でもない」
それは、半年後にかなりのビッグコンテンツになる『アイドル☆プリンス』のセンターキャラ、上条光輝のオーディション資料だった。
(そうだったよ。前回はアイドルものって聞いた段階で断ってたから、何の役を振られる予定だったかも知らねーんだよ……)
受かるわけない。
羽田悠一郎は2年前の段階で、すでにいくつかの乙女ゲームやアニメに出ている。女子の人気も高くて、この『アイドル☆プリンス』の上条光輝役でその地位を不動のものにするんだ。
(過去を変えるって、ハードル高ぇ)
けど、結論から言うと──俺は、羽田悠一郎の当たり役を、奪うことになった。
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