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お互いを好きな理由
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「皆さま、本日は突然の呼び出しにも関わらず、こんなにたくさん集まって頂いてありがとうございます」
ハッキリ言って、大学からいきなり養成所に通って声優になった俺に、ビジネスマナーなんてものはない。ただ、とびきり厳しい養成所にしつけられたから、対人関係には感謝が必要ってことだけは知ってる。
「週刊リアル芸能さんから明日記事が出る件について、どうしても謝りたいことがあってこういう会見を開いてもらいました」
ビジネス口調がだんだん崩れてくる俺に、笑いの沸点が低い一部の記者がちょっとだけ表情を柔らかくする。
「記事は、俺と時野がこう……なんていうか、キスしてる写真が撮れたってやつで。まずは、それについて謝らせてください。深夜とはいえ、屋外でキスなんかをするのは大人としてダメな行為でした。本当に申し訳ありません」
俺が頭を下げると、未来も横で合わせて深くお辞儀をしてくれた。
「それから、俺たちのことで出演作品のイメージが悪くなったって人たちにも謝りたいです。本当に軽率なことをしたと反省してます。すみませんでした」
もっとヤジが飛んだりするかと思ってたけど、オーディエンスは案外静かだ。
「写真が撮られた日は『鬼神大戦』の打ち上げの日で、2人ともさんざん飲んで酔っ払ってました。だから許されるとは思ってません。なので、今後は飲酒量には気を付けます。な、未来」
「あ……はい」
「約束しちゃったんで業界のみなさんも、俺たちに飲ませ過ぎないようにお願いします。なにしろ声優って立場弱いから、注がれるビールは断れないんです」
ここで、会場から笑いが起こった。掴みはオッケー。
「それから『2人は愛の巣へ帰宅』って書かれてるんですけど、これは本当です。俺たちは、養成所を卒所してからずっと一緒に住んでます」
すると、ようやく記者の一人が質問を飛ばしてきた。
「お二人は、付き合ってるんですか?」
「はい、そうです」
「男同士で……?」
「何かいけません?」
「え、いや、あの……」
(もう、この2年もチャラなんだ)
多少、ヤケになってもいた。こうなったら、なんでもかんでも正直に答えてやる。
「俺は養成所で未来に会って、まずその才能に惚れました。凄い演技をする奴がいるんだって。こういう奴が、マギオンに出てた大鷲さんみたいな『本物』の声優になるんだろうなって。それから、2人で卒業公演のメインキャストに選ばれたんです。お互いの家を行き来して稽古をするうちに、才能だけじゃなくて恋愛的な意味でも未来のことを好きになった。可愛くて、わがままで、マイペースで、でも芝居に対しては一生懸命で。物静かだけど、実は熱くて。人間的にもすげー魅力的なんです、時野未来って。惚れないなんて、無理でした。だから、俺はこれからも未来のことを愛していく。未来のためなら、なんだってする。そう誓ってるんです」
「蓮……」
「あと、何か質問あります? 何でも答えますよ」
一瞬記者たちは面食らったようにポカンとしていたけど、そこはさすがにプロで、すぐに何人もの手が上がった。俺はそのうちの一人を上着の色で指名する。
「非常に情熱的な告白だったんですが、良ければ時野さんのコメントも頂きたく……」
「未来、何か言える?」
「あ、うん。ええと……むしろありがとうございます、聞いて頂いて。ここまで蓮に言われて、僕だけノーコメントってわけにはいきませんよね」
会見場はすっかり柔らかい雰囲気になっていた。未来の言葉にも、記者の幾人かが笑顔でうなずいている。
「まずは、作品のファンの皆さん、それから制作に携わっている方々、関係者の方々に謝罪をします。本当に申し訳ありませんでした」
静かに未来は謝って深く頭を下げた後、もう一度マイクに向かって語り始めた。
「……僕は、自分で何かを決めるのが苦手で。蓮はいつも目標に向かって真っ直ぐっていうか、これって決めたときの行動力が凄いんです。頑張ってる蓮がカッコよくて好きです。僕もあんな風になりたいって、そういう憧れもあって大好きなんです。でも、なんか今すごく恥ずかしい。蓮の正直な気持ち、こんなふうに聞いたことなかったから……ちょっと、動揺してます。嬉しいんだけど」
あったかい笑いで、会場が満たされる。未来は自分の両手で顔をあおいでいた。
その後も、多少面倒な質問(この国の同性愛への偏見についてどう思いますかとか、そんなやつだ)もあったものの、概ね良い雰囲気のままで会見は終わった。
控室に戻ったら、鴻上マネージャーは苦笑い、都築マネージャーには「なんなの、あんたたちって」と呆れたように低い声で言われた。すると──
「……ありがと、蓮」
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