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アルバム絵本
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奏一さんの力強い腕にきゅうっと抱きしめられ、頭をくしゃくしゃになる程撫でくりまわされ、僕のむず痒いドキドキに思考回路が回らない。
百目鬼さんより細い腕、なのにその腕は百目鬼さんより温かく僕をすっぽり抱きしめる。
マキ「ちょっ!?…そ、奏一さん?!」
奏一「ふふふふッ、よしよし」
どんなに力を入れても、ビクともしない奏一さんの腕、見た目はスマートで、服の上から見た感じ、緋色さんみたいにムキっと筋肉あるわけじゃない細いラインなのに、なんでこんなビクともしないのか…
奏一「マキは頑固で意地っ張りだね」
マキ「奏一さん、髪がボサボサになっちゃうよ」
奏一「…そういう顔出来るようになったのに」
マキ「ふぎゃッ…」
奏一さんが僕の鼻をつまんで、小憎たらしいと言いたげに眉を顰めて笑った。
奏一「あいつも悪いけど、マキも悪い」
マキ「うにゅ…」
奏一「せっかく、拗ねたり照れたり、今みたいに困った顔も出来るようになったのに、あいつがそんなマキが良いって言ってんのに、何を不安がる。あいつはマキの家の事知ってんだろ?」
マキ「…ひってまふ…」
奏一「なら、飛び込んでくりゃ良いじゃん、あいつの腕はそんな頼りない?信じられない?幸せになれそうにない?」
マキ「ッ!!違う!」
鼻をつままれてた手を払いのけて、ハッキリ口にした。
奏一さんには誤解させたくない!修二にはそう思われたくない!百目鬼さんは前の百目鬼さんと違う!もう過去の過ちは繰り返してない!誰が百目鬼さんを誤解しても勘違いしても、奏一さんと修二にだけは誤解して欲しくない!
百目鬼さんは変わった!百目鬼さんはもう誰も傷つけない!
マキ「奏一さんにこんな話した僕が悪いけど、過去の百目鬼さんは許されないけど。今は違う!僕と付き合ってからの百目鬼さんは変わった!あの頃と違う!百目鬼さんはもう人を傷つけたりしない!…そりゃ怖い顔してるし言い方乱暴な時あるから誤解されるかもしれないけど、ちゃんと話せば分かる!百目鬼さんは百目鬼さんなりの優しさで厳しく言っちゃったり、誤解させる言い方しちゃったりするだけ。奏一さんが許せないのは分かってる!でも…今の百目鬼さんは、絶対絶対修二や奏一さんを傷つけたりしない!絶対にしない!今の百目鬼さんのことは信じてあげて!」
奏一さんの厳しくも優しい瞳につられて〝不安〟なんて言った僕が悪い。
百目鬼さんは頑張ってる、百目鬼さんは変われたんだ!なのに、僕が変なこと言ったから、こんな事に…せっかく奏一さんと百目鬼さんが話が出来るようになったのに、百目鬼さんと奏一さんと修二の関係が崩れたら、僕のせいだ…
奏一「…フッ、クックックッ…」
マキ「え?…、…どうして笑うの?」
奏一さんは僕を抱いたまま声を抑えて笑った。
…って言うか、爆笑?
奏一「クックックッ…」
マキ「あの…、奏一さん?」
奏一「ははっ。…ごめんごめん、マキは本当に百目鬼が大好きなんだな、百目鬼の事ばっかだな」
あっ、奏一さんが〝百目鬼〟って言って笑ってる。
奏一「…誤解無いように先に言っとくけど、マキが俺の前で百目鬼の話をするのは全然良いんだよ。むしろ、マキの口から聞かないと安心できないし、百目鬼が、マキを大事にできてる、昔とは違うって確認できる。だから、マキはどんどん百目鬼の話をすれば良い。むしろ聞かせてくれ」
マキ「えっ…」
奏一「ごめんな、マキが、俺の前で躊躇してるのは知ってた。でも、やっぱ、月日が経てばいつか〝また〟ってなるんじゃないかという気持ちは拭えない。ただ…マキが凄くあいつを好きで、あいつも凄くマキが好きなのは、夏に別れて死にそうになってたマキと、マキが大事だから別れたと言い張るバカを見てよく分かった。寄りが戻ったら戻ったで、あいつは事あるごとに俺に許可を求めるように報告してくるし、マキは幸せだと一生懸命豪語するし。今の百目鬼がどうのとか、過去を許せるかとか、そんな複雑なことに答えは出せないが、1つだけ言えるのは、〝マキが好きな百目鬼と、マキを好きな百目鬼は信じても良い〟」
マキ「……そ…ういち…さん…」
奏一「だから、約束して。大人ぶって1人で頑張るな、思ってることがあるのに、幸せだ大事にされてるって意地張らないで、百目鬼への不満も不安も怖がってることも、全部話して。マキが好きな百目鬼を無闇に病院送りになんかしないし、マキを好きだともがきながら前進しようと失敗してマキを泣かせたりするバカを、〝また繰り返してる〟なんて言わない。百目鬼は、昔っから言葉足らずで優しい言葉を言おうとして怒鳴り散らす日本語の出来ないブッキーだった、俺が慕った昔のあの人は、言葉でどうにも出来なくて、何かあると『飯食ってけ』としか言えない人だった。黙って頭を撫でてくれる人だった…」
百目鬼さんが修二を傷つける前は…
母子家庭で歳の離れた弟が居て父親代わりに突っ張って生きてる奏一さんにとって、百目鬼さんが初めて肩の力を抜けた相手だと聞いたことがある。
奏一さんは百目鬼さんを兄のように慕って、喧嘩っ早い奏一さんを止めるのも百目鬼さんで、百目鬼さんは多くは語らないけど、黙って話を聞きながら、少ない言葉で奏一さんを励まして真っ直ぐ前を見れるようにしてくれたと言っていた。
奏一さんの母親が過労で倒れた時も、強さに力を求めた時も、進むべき道を諭してくれたのは百目鬼さんだった。
百目鬼さんが修二を襲うまでは、奏一さんにとって百目鬼さんはすべての支えで、本当の兄のような存在だった。
聞けば聞くほど、そのあとの裏切りに奏一さんと修二がどれほど傷ついたか想像を絶する…
奏一「過去を許すことはできない。だけどねマキ、君が間に入って修二が和解できたことは、俺にとって良いことだと今は思ってる。どんなにあいつが反省してる2度と手は出さないと言っても、そんなこと信じられないから、あの時から7年、ずっとあいつがまた修二を傷つけると怖かった。…もう、その心配はしなくていい…、…修二が、笑ってる、あいつを前にしても、もうなんの心配もないって笑ってるし、むつと華南と一緒にいて、日々穏やかで幸せそうで…、それに強くなった。…俺に怒鳴ったりするほどね」
マキ「えっ…」
奏一「百目鬼にも怒鳴って叱ってたよ。ふふ…」
マキ「修二が?奏一さんを怒鳴ったの?」
奏一「ああ、俺がカッと頭に血が上って百目鬼を殴ろうとしたら、怒られちった」
マキ「…」
なんとなく、僕と百目鬼さんが夏の間別れてた時と関係してると思った。
だって、奏一さんと修二と百目鬼さんが揃って、修二が奏一さんを止めるために怒鳴って、百目鬼が叱られるって構図は、その時の状況ならあり得そうだから…。
…ん?ってことは、僕の知らないところで勝手に修二や奏一さんや百目鬼さんが会ってたってこと?
……ってか、そうなると、ことの発端はむつがなんかしでかしてたんじゃないだろうな。あの時、むつは百目鬼さんぶっ飛ばすってめちゃめちゃ興奮してたし。
もぉ、むつは余計なことを…
後で探り入れてお仕置きしてやる。
奏一「それに、マキ、今自分で言ったろ?百目鬼は誤解されやすいけど、話せば分かるって」
マキ「…」
奏一「自分で言ったなら、できるよな」
マキ「…」
奏一「家族になれるかどぉー不安なのか、あいつに話せるよな」
マキ「…奏一さんは追い込むのが上手いね」
奏一「マキに言われたくないな、マキの方が、よっぽど巧妙に追い込むだろ?」
マキ「…奏一さんのは、なんかずるぅーい」
奏一「ずるくないだろ。あいつに話をして、もし泣かされたら、俺が話聞いてやる。修二に話し辛いことも、誰にも言えないようなことも…
俺が聞いてやる。
お兄ちゃんになんでも言いなさい」
マキ「!?」
奏一「お兄ちゃんになんでも聞きなさい。なんでも答えるし、力になる。マキが俺にそうしてくれたように。修二がマキにそうするように。弱音とか同情とかじゃない、思いやりだ。俺も修二も、むつも華南も、マキが好きだからな。だから、なんでも相談して、マキがあいつと喧嘩しても、ちゃんと仲直りする方法を一緒に考えるから。マキがあいつを好きであいつがマキを好きなら、俺は応援するから、だから遠慮したり気を使ったり頑張りすぎたりするな。
あぁ、もちろん、マキがあいつと嫌いになって別れたくなったら全力で引き剥がして病院送りにするからさ」
マキ「そんなこと絶対ありえないもん」
奏一「あはは、拗ねて口がアヒルみたいになってる」
マキ「だって拗ねたもん」
奏一「ははっ、いいねいいね、その調子であいつの悪口も聞きたいな」
マキ「百目鬼さんに不満なんかないもん」
奏一「仕事ばっかで放って置かれてるだろ」
マキ「仕事人間で休みもろくにとってない奏一さんに言われたくないもん」
奏一「俺は独り身だからいいの」
そうなんだ、じゃ、夏さんとは付き合ってない?
それとも隠してる?
マキ「…彼女いないの?」
奏一「ああ、今はいないよ」
目は真っ直ぐ、嘘ついてる様子はない…
じゃあ…
マキ「……奏一さんって童貞?」
奏一「は?!」
驚いて顔が赤くなった奏一さんに畳み掛けるように、可愛らしく小首を傾げ、キュルンと瞳を潤ませた上目遣いで聞いてみた。
マキ「お兄ちゃんはぁ♪なんでも答えてくれるんでしょう?♪」
奏一「ッ……………………………」
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