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感情②
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殴られた頬を手で抑える。
「ほんとに、たまたまポケットにはいってたんだよ、嘘なんかついてないよ」
嘘ついたって、なんの意味もないでしょ、と言うが、佐木は倒れ込んでいる倉橋の腹に、だまれというばかりに蹴りを入れた。
うっ、とくぐもった声が漏れる。
「…信じてよ」咳き込みながら言う倉橋をまるで汚物でも見るかのような目で見る佐木。
「お前なんか、最初っから信用してねえよ。嘘つきのくせに!何が信じてだ!あの時だって本当は……」
そう言いかけたが、何故か佐木は喋るのを止めた。
そしてゆっくり下を向いて、俯いたまま立ち尽くした。
急に黙る佐木。
倉橋は言葉の続きが気になって聞き返したかったが、これ以上何か言っても、逆上して更に殴られるだろうと思い、開きかけた口を閉じた。
「………」
沈黙が流れる。
今までこんなこと無かったのに。
殴るなら殴る。最後まで容赦なく殴る。そして気が済んだらすぐ何処かへ行ってしまう。
だけど今回は何かおかしい。
一向に動こうとしない。
黙り込んだままの佐木の顔を、恐る恐る覗こうとする。
けれど、それを避けるように背中をむけられた。そしてその背中は何故か小さく震えている。
「さき、くん?」
先程の殴られた痛みなど忘れて、心配する倉橋。
「…大丈夫?体調悪いの?」
話しかけてみるも、反応は無い。ただ肩が揺れているだけ。
蹴られた腹が痛まぬように庇いながらゆっくり立ち上がり、ズボンについた土を手でパンパンとはたいた。
そして佐木の方へ歩み寄る。
「さきくん、こっち向いて?」
「…っ……っうう…‥…」
震える肩に手を添えながら、佐木の顔を覗き込んだ瞬間、倉橋は戸惑った。
「な、なんで、泣いてるの?」
佐木の瞳からは大粒の涙が流れていた。
少しつり目気味で、猫のようにクリクリした瞳。意志が強そうで凛としていたあの瞳。
それが今は、流れる涙を止められずに潤んでいて、瞬きするたびに雫がこぼれ落ちる。
生意気そうな、ツンと尖った鼻先は
今は真っ赤になって鼻水をすすっている。
普段目にする事のない、辛そうな顔。初めて見る佐木の涙に、思わず心臓がドクンと反応した。
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