アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4-6side嵐
-
雛の上目遣いにやられて、自分が出ている映画を見る羽目になってしまった。
仕方ない。昔からあの顔には弱いんだ。
出演作をわざわざ映画館まで観に行くなんて、メディアには絶対に知られなくない。けれど、雛のためならプライドも恥も捨てる覚悟くらいある。
「でも、なんでよりによってこの映画かな…」
嬉々としてチケット売り場の列につく雛の背中を見て、少しの不安が過った。
雛はあの頃から、どれだけ立ち直れているんだろう。
もうお前の泣いてる顔は見たくないんだけど。
「…この映画、どんな話か知ってる?」
「あ!ネタバレしちゃだめだからね!」
嵐の質問に、雛が噛み付く。
その顔には、映画が楽しみで堪らないとはっきり書いてある。
正直、自分のことにこんなに興味を持ってくれるのは嬉しいし、はしゃいでいる雛は可愛い。
でもこの映画は…
まぁ、心配したってどうにもならないし…なるようになるか。
そう思い直し、雛の隣に並んだ。
「残念。ネタバレしてやろうと思ったのに。」
「またそういう意地悪言わないで!」
上映時間まで楽しそうに笑っていた雛のその顔は、映画を見終わる頃にはぐしゃぐしゃの泣き顔に変わっていた。
「…泣きすぎ。」
「だっ、て…っ」
「大丈夫?」
両手で涙を拭いながら、首を振る雛。
頬も瞳も、泣いたせいで真っ赤になってしまっている。
「やっぱり止めておけばよかった…」
ちらりと目に入った映画のポスターに映る自分を睨み、雛にバレないように溜息を吐いた。
上映が始まってから、ほとんど雛は泣きっぱなしだったと思う。
映画は、不治の病に侵された青年とその恋人のラブストーリー。青年と恋人は永遠の愛を誓うけれど、同じ未来を歩くことは無い、そんな悲しく切ない話。正直今の時代にありふれた、どこにでもあるお涙頂戴映画だ。だけど、雛にとっては決してスクリーンの向こう側だけの世界じゃない。撮影中も、雛のことが何度も頭に浮かんだ。
だって雛は…、雛も待っていたんだ。
大きな病院で、毎日毎日祈り続けていたんだ。
いつか治ると、帰ってくるとそう信じて。
実際雛が過去の自分と重ね合わせて泣いているのか、映画に胸を打たれて泣いているのかは分からない。しかし映画館の前で号泣する成人男性は、はっきり言ってかなり目立つ。
雛を泣き止ませている間に、声でも掛けられたらたまらない。
「ごめん、目立つから行こう。」
キャップを深く被り直し、嵐は雛の手を引いた。 つられるように小さな歩幅で歩き出す雛。
その手が強い力で握り返されたことに、少なからず驚いた。
再会してから、雛の方から腕を引っ張ってくることはあったが、握った手を握り返してくれたことはなかったから。
この温かい手を、ずっと離したくない。
一瞬でもそんな風に思ってしまったことが、酷く可笑しかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
77 / 85