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『S』男と、恋敵
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「神崎……………?」
昼休みの職員室。
学級委員の颯は、先生に呼ばれ職員室に来ていた。
「……………速水……」
颯を呼んだのは、速水一真。
淳に恋する、『S』な生徒会長。
颯は、この速水が正直、苦手だ。
冷静なその目は、何もかも見透かしているようで、怖い。
「なに、そんなに逃げたい感アピールするなよ。わかりやすいな…………」
「べ…………別に…………」
既に、見透かされている……………!
颯は俯いて、出入口へ目を向けた。
手には、先生に渡された教材を抱えたまま。
用事を済ませて、早く大和の待つ屋上に行きたいと思った。
「ほら、貸せよ。重そうだな」
一真は軽々と、颯の手から教材を取り上げた。
颯も、身長的には普通並みにある。
でも一真にしてみたら、ひ弱なチビ。
と、言うか…………男を翻弄する、達の悪い『お姫様』。
……………あくまで、速水一真ビューではあるが。
(決して、颯はひ弱ではないのだが…………)
「は、速水…………っ」
「どこ持って行くんだ?教室?早くしないと、昼休み終わるだろ」
「あ、うん………………ありがと………」
……………………………。
二人は、無言で廊下を歩いていた。
お互い、淳を通してでないと会話をした事がない。
微妙に、気まずい。
颯は、何か話題がないかを模索する。
ただでさえ人が苦手なのに、出る筈もなく…………自分の不器用さに、小さく息を吐いた。
「…………………お前、嵩原大和と付き合ってんの?」
突然、颯の気持ちを裏返すような一真の言葉が、沈黙を破る。
「……………は…………」
颯は思わず立ち止まり、一真を見上げた。
何で!?いきなり……………。
言葉に詰まる颯を尻目に、一真は表情一つ変えずに前を向いたまま歩いて行く。
慌てて颯も、歩み寄る。
「嵩原と付き合ってるならさ、淳…………俺に譲ってくれない?」
「…………………え!?」
譲る………………て、なに?
颯の心臓が、一気に早く音を立て始める。
「俺……………淳が、好きなんだ」
一真は、見るからに動揺している颯を見つめ、ハッキリと気持ちを口にした。
「す…………好き…………?」
頭がこんがらがる。
好きって、友情…………とか?長い間、一緒にしてきた生徒会やサッカー部の仲間としての、好き?
それとも…………もっと、別の……………?
颯は一真から目を逸らせなかった。
淳の彼女は、何度も見てきた。
とにかく、淳はモテるから、慣れてはいた…………慣れてはいたけど………………。
「淳は俺の気持ち、随分前から知ってる。知ってるけど、駄目なんだよな……………お前がいるから」
「………俺…………」
颯は、ハッとした。
淳が今好きなのは、俺……………。
泊まりに行った日の事が、脳裏に甦る。
あの時の淳に、顔が熱くなってくるのがわかった。
あれからまだ、淳とまともに話すら出来ていない。
「淳の気持ちに応えられないなら、ちゃんと淳に言えよ。お前が区切りをつけなきゃ、淳は足止め食らったままだろ」
胸に、突き刺さる台詞。
ごもっともな、話。
自分は大和に恋してて、淳の気持ちにちゃんと返事すらしていない………………最低だ。
いつも淳が優しいから、当然のように甘えている…………。
「ご、ごめん…………」
「謝る相手、間違ってる。淳の優しさに、慣れ過ぎ」
一真は、あえて厳しく言った。
自分が優しくしなくても、颯を守る相手は充分いる。
たまには、キツい敵役も必要だ。
「俺、本気だから。お前が、嵩原を選ぶなら、俺は我慢しないよ」
「…………速水…………」
何だろう…………。
淳の彼女なんて、慣れていたのに…………速水は違う気がする。
淳が、離れてしまうかもしれない?
大切な、幼馴染み。
失う不安が、初めて颯を追い詰める。
「あ、教室着いたな。…………じゃ、お手伝い終了だ」
一真は颯に教材を渡し、去って行く。
何事もなかったように、いつもの冷静な生徒会長の顔をして。
「速水が、淳を……………」
当然であった事が、当然でなくなる不安。
手が、微かに震える。
淳は、速水の事……………好きになるのかな…………?
「颯…………っ!何しとんねん?なかなか上がってけえへんから、迎えに………………颯?」
一真が去った廊下を、大和が心配して迎えに来た。
直ぐに、大和は気付く。
颯の様子が、おかしい。
「…………や、大和…………」
「どないしたんや?何が、あった?」
大和は颯に近寄り、顔を覗き込む。
「…………が…………淳が………離れていくかもしれない……………」
「あ…………?どう言う意味や?淳が、そう言うたんか?」
「………言っては…………ない、けど…………」
動揺を隠せない颯を前に、大和は落ち着いて話を聞いた。
いくら恋敵とは言え、颯にとって淳が大切な仲間である事は、理解している。
その仲間の事で颯が悩むなら、支えてやりたい…………当たり前のように、そう思えた。
昔の大和なら、きっとあり得なかっただろう。
「自分で言うてへんのなら、堂々としとき。あいつは、そないに信用出来ひん奴やないやろ?……………まあ、何があったか知らんで言うとるけどな」
「大和……………」
颯は、大和の顔を見つめた。
大和に言われたら、何故か安心する。
それが、経験豊富だからこそ言葉に力を感じるのか、自分が大和を好きだから受け入れやすいのかは、わからない。
だけど、凄く、心が元気になるのは確かだった。
「だ、大丈夫かな?……………でも、淳の事…………好きだって言うし…………」
「好き?好きって、誰が?あいつ、モテそうやし、好き言う奴くらい沢山おるわ。いちいち気にしとったら、身ィもたへんで」
………………ん?いや、待て待て!
俺、何か…………颯と淳を応援しとるような事言うてへんか?
大和は、自分で颯を励ましながら、墓穴を掘っているような気がした。
「……………そうか……………そうだよね?淳の気持ちは、わからないし…………離れるかもって、急ぎ過ぎだよね。やっぱり、ちゃんと淳と話さないとな…………淳が優しいから、ついそのままにして、甘えてた」
え?話?話って、何や…………?
大和は、心の中で呟いた。
あかん…………確実に、墓穴掘ったな…………。
しかも、具体的な話を聞くタイミングを、明らかに逃した。
大和の言葉を素直に聞き入れ、前向きになりかけてきた颯を見ながら、大和は今更撤回出来ない状況に、心中複雑…………。
「大和、ありがとう……………。淳と、話してみる」
大和に笑顔を向け、颯は少し明るくなった声で決意する。
「……………………ま、しゃーないか。お前が笑顔になれるんなら……………」
「…………大和?…………」
溜め息をつき、大和は颯の頭を軽く撫でた。
「手に持ってんの、早よ教室置いてき…………ご飯食べる時間、無くなるで」
颯の持っている教材を指差し、大和が微笑む。
「う、うん…………」
そんな大和に、颯は嬉しそうに教材を置きに入った。
自分が付き合っている人は、本当に格好いい。
何度、そう思っただろう。
ノロケと言われても仕方がない。
だって、本当ーに、格好いいから…………!
廊下の柱に寄りかかり、スボンのポケットに手を入れて、窓の外を見ている大和の姿に、思わず見とれてしまう。
教材を置きながら、颯の視線は大和へ注がれる。
淳を失うのは、嫌だ。
でも、恋は出来ない。
大和が、大好きだから。
大和の大きさが、大好きだから。
きちんと、しなくては。
速水の言う通りだ。
淳の事も大切だからこそ、向き合わなくては。
淳は、聞いてくれるかな?
嫌いに、ならないかな?
不安は、よぎる。
嫌われる事は、怖いから。
嫌われたくない。
人は、弱い。
好かれる一歩は、軽く。
嫌われるかも?な一歩は、とてつもなく重い。
仲が良いからこそ、それは余計に重くなる。
だから、その一歩は貴重だ。
一歩が踏み出せた時、必ず少し、強くなれる。
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