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待ち合わせ場所のカフェを覗くと、リカちゃんは窓際の席に座って本を読んでいた。珍しく外でも眼鏡をかけていて、後ろで緩く結んだ髪の間から白い首筋が見える。
今日も相変わらず黒っぽい服を着て全身真っ黒に近いくせに、その姿はやたら目立つ。
俺に気付いたリカちゃんが軽く手を上げた。
「なんでコンタクトじゃなくて眼鏡?」
リカちゃんの前の席に座り、ココアを頼んだ俺は開口一番にそう聞いてみる。
「コンタクト入れてるけど、これは一応変装にな。この時期はどこに知り合いがいるかわかんねぇから」
「…そっか」
リカちゃんと俺の関係でイベントの日に外に出るのは危険過ぎる。普段は近場で遊んでるヤツらも今日は遠出してる可能性だってあるのに、俺はいつも通りの恰好でそんな事考えてなかった。
こいつは、相変わらず俺の何歩も先を見てる。
「今日はどうすんの?車は近くに停めてきたけど」
リカちゃんには車で来いとしか言ってない。どこに行って、どうやって過ごすかは秘密だった。というよりもテスト勉強に必死で考えてなくて、終わってからは何話そうかってことしか頭に無かった。
「えっと…」
俺を見るリカちゃんの目。なんの計画もないなんて言ったら絶対呆れられる。自分から誘ってきたくせに考えとけよって言われるに決まってる。
とりあえず目の前のココアを飲んで時間を先伸ばそうとする俺にリカちゃんは容赦ない。
「勿体ぶってないで言えよ。どうせ運転すんの俺なんだから」
「そう、なんだけど」
「それとも車置いて電車?今日なんて満員だろ…」
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
もう諦めて冷めた目で見られんの覚悟で言った方がいいんだろうか。
どんどん減っていくココアに、どんどん増えてく『どうしよう』
最後の1口を飲み干した俺にリカちゃんは頷いた。
「なるほど。さてはお前、俺にエスコートさせる気なんだな?」
なにやら勘違いをしたリカちゃんは勝手に納得し、勝手に予定を組み始める。俺はそれを黙って眺めていた。
伝票を手にしたリカちゃんが立ち上がり、俺に手を差し出した。
「では、お手をどうぞお姫様。今日を忘れられない1日にしてあげる」
…ほんの10分ぐらい前まで「どこに知り合いがいるかわからない」って言ってたのはどうした。
店内の注目を集めまくっていた男がいきなり立ち上がり、相手の男に手を差し出し吐いたセリフは完全に頭がおかしい。聞こえたはずの周りからの視線がすげぇ痛い。
伸ばされた手を取らず、固まる俺にリカちゃんはため息をついた。
「ノリが悪いな」
「俺にはまだ恥じらいがあるんだよ。周りを見ろ、周りを」
ぐるりと辺りを見回したリカちゃんが首を傾げた。
「知り合いはいないようだけど何か問題あるのか?」
「頭いいのにバカなんだな。問題しかねぇだろ」
リカちゃんを置いて店を出れば後ろで会計を済ませた男が追いかけてくる。その時やっと今日はいつもの匂いがあまりしないなって気付いた。
「香水、付けてねぇの?」
「あー………うん、忘れてた。コートの移り香ぐらいしかねぇな」
「珍しい。お前でも何か忘れたりするんだな」
俺が久しぶりに付けたのにリカちゃんが忘れてたら意味ないじゃん。そっぽを向く俺の顔をリカちゃんが覗き込む。
「じゃあ最初は香水買いに行こうか」
「わざわざ買わなくても…」
「なんで?お前がつけてくれんの久しぶりだろ。せっかくのデートなんだから同じ匂いさせたい」
初っ端から甘ったるいリカちゃんに勘違いしそうになる。まだ俺たちは仲直りしたわけじゃない……けどケンカしてるわけでもない。
謝ることはなくて、でも話はしなきゃいけなくて。じゃあ何て言えばいいんだろう?
ここ数日考え続けたことがまた蘇って来て『どうしよう』がさらに増えていくのを感じた。
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