アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
色んな代償にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
色んな代償
-
「…これ。」
ゆっくりと起き上がった上村が、唇を噛み締める雄大の手に角の潰れた紅茶の箱を置いた。
「………」
無言で受け取り、雄大はその場を去ろうとした。
「あのさぁー。」
後ろから不満そうな声がして、雄大はビクッとした。
「あの日のこと、無かったことにしてるの?」
「……」
「それともあの時の理由聞かれるのがイヤなの?」
「……」
「泣き虫、迷子を駅まで送ったのは誰かなー?」
雄大はぐるりと上村に身体を向けた。
「どうもその節は大変申し訳ございませんでした!あれはもう解決致しましたので大丈夫です!あっ、法被姿、大変良きお似合いでしたよ!!」
とりあえずベラベラ喋って頭を下げた。
(なんであんな恥さらしをこいつにしたんだよー僕!)
「?」
何も言い返して来ないので、雄大が顔を上げると真っ赤な顔をした上村が口元を手で押さえていた。
「法被…似合ってました?」
「あっ….う…,」
「ちょっとお兄さん。」
後ろから声をかけられ、雄大は振り向くと眼鏡をかけた年配の女性が手招きしていた。
「あっ、はい。」
雄大はそのまま上村に向き直らずにトトトッと走って行った。
「この木のボールなんだけどね…」
向こうの方で帰りがけの野上に対し、珍しくアタフタとして何度も首を上下する上村が見えた。
(どうしたんだ?あいつ?)
「これくらいのサイズをお願いしたいの。」
「ん…あっ、はいはい!これくらいですか!?」
笑うと目の横の傷が痛む。
「雄大君、それ買うの?」
レジにいた店長がカチャリと眼鏡を上げた。
「はい。。落として凹ませました。」
「そっかー。割引いて、店出しするよ?」
雄大は一瞬パァッと顔を上げたが、すぐに上村の姿を目の端に留めてしまった。
「いや…いいっす。上村君に何言われるか…」
「そう…なの…?あっ、そうだ、雄大君!」
店長はワザとらしく手を叩き、いそいそとA4の紙をレジ台に置いた。
「お盆なんだけどー!」
「ですよねーー西川ちゃんが実家帰るって言ってましたからー。」
店長は口籠りながら「う…うん。。」と言って頭をかいた。
広げた紙を見ると、上村の欄もずっと公休になっていた。
「上村君もご実家帰るようだから、夜の人がいないんだよー。だから雄大君と牟田さんに昼過ぎから来てもらってのシフトにしようかと思っててー。」
「わっ、わかりました。いいですよ。」
「わぁ!ありがとう!じゃあ、ちょっと裏で牟田さんに電話してくる。」
店長は足取り軽く、裏へと消えていった。
(そっか…あいつお盆いないんだ。。)
雄大はちょっと拍子抜けした気分だった。
「おい!!少年!!!」
大きな声がフロアに響いた。
雄大が顔を上げるとドシドシと歩いてくるスー姿の男性が近づいてきた。
「黒田さん?」
「てめーーー全て置いて逃げやがったな!俺、あの後、綿菓子とヨーヨー持って歩いたんだぞ!ナンパもできなかったし、お前はいないし!」
ずんずんと近づいて来て、雄大はひっと腕で頭を隠した。
「す、すみません!あの時は色々あって…」
「色々あって逃げ出したんかい!」
「でももう解決したんで、あの…今日もカッコイイですね、黒田さん!」
「わかってるわい!そんな事で騙されんぞ!」
「騙されるって?」
低いよく通る声が耳に届いた。
黒田の後ろから黒のスーツを着た長身の男性が歩いてくるのが見えた。
「か…成康さん…」
ぽかりと口を開ける雄大と対照的に楽しそうに笑いながらくる成康がいた。
「おうおう、聞いてくれよ、こいつさ…」
雄大はついカウンターから身を乗り出して、黒田の口に手を押さえた。
「んぐっ!」
「あの時って?」
キラキラと輝くような笑顔が降り注いだ。
「何でも…何にも無いです!」
「フガッ!」
雄大は赤くなる顔を俯きながら、手を離した。
「ん、わかった。」
雄大は顔を上げれないでいると、黒田が雄大の胸を叩いた。
「……まっ、何にもないよな。」
何かを悟ったようなくろ田は両手を頭の後ろで組んだ。
「きょ、今日はどうしたんですか?」
「黒田さんが俺のパソコンをウイルス感染させちゃって。最新型の高いやつを買いに来たんだよ。」
「中古でいいだろう?中古で。」
フンッと鼻を鳴らす黒田に成康はにっこりと笑いかけた。
「私がバックアップを取っていたからこそ、黒田さんはパソコンを弁償するだけで済んだんですよ?アダルトサイト見ただけといっても、一歩間違えれば、ハッキングされて、顧客情報が漏れてたかもしれないんですよ??」
その笑顔の怖さに雄大も黒田も顔が強張った。
「わっ、わかってるよ!ほら、じゃあこの階だろう?」
黒田は足早に出て行った。
「あっ、雄大君。」
成康は一歩も動かず、急に雄大に向き直った。
「はっ、はい?」
「お盆なんだけど…」
(えっ?お盆??)
雄大が首をかしげると成康は言いにくそうに雄大を見つめた。
「…休みじゃないよね?」
「…….あっ…はい。」
成康はあははっと乾いたような笑い声を上げた。
「だよね。忙しいよね!」
「何かあったんですか?」
(まさかまだ元カノ問題が!!)
「いや、お盆は実家に帰る予定なんだ。」
「あっ…そうなんですか…」
「だから…を……」
成康は雄大の顔の傷を撫でた。
「??」
ガタン
大きな音がして、上村がカウンターに入ってきた。
「椿さん、これ、どこに置きます?」
上村はたった1個のマグカップをドンッと雄大と成康の間に箱を置いた。
「上村君、これはあとでも…」
「あっ、ごめんね。仕事中に。だから、お盆はしばらく会えないけど、お土産買ってくるね。」
「あっ、はい。」
「じゃあ。」
成康の手が離れるとひどく寂しい気持ちになった。
「あっ、成康さん!」
振り返った成康に雄大はなんとか言葉を絞り出した。
「気をつけて!…行ってください。。」
満足げな成康の笑顔は雄大の心を温かくさせた。
「あの人….しばらく来ないんだ…」
「えっ?」
上村の呟きは小さくて、聞き取れなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 147