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楓の涙にしおりをはさみました!
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楓の涙
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俺は無力だ
自分の世界でもこの世界でも無力
何も出来ないし誰も助けられない
自分の世界では生きて行くだけで精一杯だった
魔法が人より優れていても自由に使う事は出来ない
それが当たり前だと思い込んでいた
だから自分は不幸なんだと・・・
でもこの世界に来て感じた
どこにいても俺は無力
ここでは当然魔法なんて使う事は出来ない
助けたくても助けられない
じゃ、俺の存在価値は何?
この世界に来て魔法で誰かを助けられると思っていた
いや、違う
あんな世界から抜け出せて安堵している俺もいる
魔法が使えなくてもここではそれが当たり前
でもみんな生きているし笑っている
魔法の力が無くても花は咲いているし食べ物もある
「綺麗な海・・・」
出歩くなと言われたけどここならいいよね?
城内だし外には出ていない
バルコニーからエメラルドの海を見つめ、溜息をついた
「・・・・・・楓?」
どうしてあんな所に?
人気の無い木々で覆われた空間に楓はいた
一人になりたいのかな・・・でも・・・
いろんな事を考えながら庭に出て楓の居る場所に向かった
「・・・・・・・・・」
泣いている
楓の涙を初めて見た
とても辛そうに拳を握りしめながら声を殺して泣いていた
「誰?」
えっ?
こんな所にいても見つかるの?
どうしよう
楓の性格を考えると返事に困る
「驚いた、楓なの?」
そう言うしかなかった
偶然を装う事にするしか
「空」
「外の空気が吸いたくて散歩してたんだ、そしたらいきなり誰?って・・・心臓が止まりそうだった」
「ごめんね、でもこんな所まで来てはダメ」
「ごめんなさい」
無理して笑顔を作り何も見なかった素振りを見せた
「この空も嘘が下手だね」
「えっ?」
「見られたみたいだね」
「本当にごめんなさい・・・楓が心配で」
「・・・・・・・・」
怖い
こんなに冷たい表情も出来るんだ
「あの・・・楓」
「この事は忘れてね?」
「うん」
でも何かしてあげたくてつい・・・
「あのさ」
「何?」
「楓にも魔法をかけようか?そうすれば・・・」
「そうすれば俺のこんな顔を見なくても済むから?」
「違う!」
「空の気持ちはわかるし、感謝しているよ」
「じゃ・・・」
「でもね、俺が忘れてしまう事を俺が許さないんだ」
「えっ?」
「凱は忘れた方がいいからそうした、でもね俺まで何もなかったかのように笑う事は出来ない」
「どうして?」
「二度とあんな目には遭わせない・・・俺が凱を護るためにも忘れてはいけない事だから」
「楓・・・」
「だけど俺もまだまだみたいだね、空にばれてしまうなんて」
そう言って俺の頭を撫でる楓はいつもの楓に戻っていた
「一つ聞いてもいい?」
「うん」
「楓が悲しいのはどうして?悔しいから?それとも・・・」
「護れなかった自分にムカついただけ、それと凱が本当に全てを忘れていたから嬉しくてかな」
「楓も嘘が下手だね」
「勘が鋭いところまで似ているんだね、そうだな・・・本当はあいつらの存在に薄々気が付いていながらすぐに動かなかったし何もしなかった結果が堪らなく悔しい」
「あのさ、この世界はどれだけの広さがあるか知らないけど、楓と奏だけでこの島全体を把握する事なんて出来ないよ、魔法世界でも同じだと思う・・・確かにここはいい島だよ、でもみんながみんな幸せになんかなれないし全て善人なんてあり得ないと思わない?ここにいる人達全員の幸せはその人達が作り出すものでしょ?・・・楓の気持ちもわかる、じゃ楓の幸せは何?今は凱との時間が大切だと思うんだけど」
「・・・・・・・・・・」
「ごめんね、何も知らない俺がこんな事を言ってしまって・・・でも心配なんだ」
「ありがとう、一度は捨てた島だから背負うものが多すぎたのかもね」
「・・・・・・・・・・」
「今考えるべき事は確かに空の言う通り」
「楓」
「戻ろう」
「うん」
楓が口笛を吹くと綺麗な馬が走り寄って来た
驚いた、まるで魔法みたい
「手を」
「うん」
楓に乗せてもらい砂浜を走った
「少しだけ寄り道しよう」
「嬉しい」
楓は優しい
だから自分を追い込んでしまうんだ
「あっ!スクネリア!本当にいたんだ・・・すごい」
「えっ?何それ」
「ほら、海」
「えっと・・・イルカの事?」
「この世界ではイルカって言うんだね・・・俺の居た世界では伝説の生き物だから驚いた」
「むしろ俺達にしてみればドラゴンが伝説だけどね」
「何だか不思議だね」
「そうだね」
「あっ、イルカが教えてくれた」
「教えるって・・・そう言えばここの空もいろんな動物に懐かれていたな、懐かれて欲しくないものまで・・・」
「楓、大変!」
「えっ?」
「知らない船がこっちに向かっているって」
「何隻かわかる?」
「4隻」
「時間が無い・・・どうすれば・・・」
このままでは数時間、いや数分後には
「楓、ごめんなさい!!」
「空!」
馬から飛び降り、ワンドを空めがけて振り下ろした
「雲が・・・」
「今のうちに、あまり持たないから」
「ありがとう」
「でも内緒ね?」
「これでおあいこだね」
「うん」
舟を失速させる為に雨を降らせ風を起こした
俺の世界で言う雨ってやつ、この世界では台風って言うんだっけ?
沈めてしまうのは簡単だけどそれはやってはいけない事だと気付いた
この島を護るのは奏達だから
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