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嫉妬と羨望6にしおりをはさみました!
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嫉妬と羨望6
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(熊谷先生語り)
次の日から、葵が俺の家に帰ってこなくなった。
バイトを辞める辞めないで喧嘩をした夜、噛み付くように俺に反抗してきた葵からは、今までに感じたことがない憤りを感じた。険悪な雰囲気の中、俺は逃げるように朝仕事へ行き、夜に帰ってくると家には誰もいなかった。
バイトの無い日だから、いつものように笑顔で迎えてくれる筈だったのに、電気も点いていない真っ暗な部屋で俺は唖然と立ちつくした。
輝くような癒しが居ない。
しかも、ダイニングのテーブルには葵が肌身離さず着けていた指輪が何事もなかったかのようにポツンと置いてあり、俺は事の重大さを知ることになる。
返されてしまった、ということは……しばらくどころか、当分会うことも叶わないのかもしれない。合鍵はポストに入っていた。
葵の無言の抵抗が俺の鳩尾を深く抉るように刺さる。
もし結婚していたら嫁に実家へ帰られるということはこんな気分なんだろうか、と自虐的に笑った。
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「先生、熊谷先生、聞いてる?さっきからっていうか朝からなんか様子が違うけど。聞いてよ。昨日ね、バイトでさ……」
いつものように、生徒指導室で事務処理をしていると、最近よく尋ねてくる生徒がいた。
現在、俺の勤めている高校は県内有数の進学校だ。葵の東高校が中の下ならば、今の南高校は上の中ぐらいで、勉強が出来る生徒が集まっていた。
その中で、成績が下の方で補習の常連、学校には来るものの、周りとは打ち解けることができずに浮いている生徒がいた。
それが今隣でマシンガンのように話している生徒、2年生の神田紘斗(かんだひろと)だ。
神田は昼休みも俺がいる時を狙ってここへやってくる。何故か俺は奴に懐かれていた。
「バイトは原則禁止だろうが。しかも俺に話すのはやめといたほうがいいだろ。」
神田のおデコを小突くと、はにかんだように奴は笑った。
「だって、話す人がいないんだもん。誰かに聞いて欲しいんだ。先生はちゃんと話を聞いてくれるからさ。」
神田は、見た目が可愛らしい。
一見、葵の高校時代を思い出してしまう程度に雰囲気は似ていた。
葵みたいに人を誘う様な甘い香りは出していないし、根本的に別人なので、ただの童顔な高校生にしか俺には見えない。
が、俺から思い出を引き出すには充分な要素はあった。
出て行かれて、余計にあいつが恋しくなる。
生徒指導室でキスをしたこととか、教科書を変態に盗まれたりとか、猪俣がちょっかいを出してきたりとか、昔の思い出が次から次へと蘇ってくる。
ちょっと生意気な所がたまらなく可愛かった。
ああ、葵。迎えに行ったら帰ってきてくれるのだろうか。
大嫌い、とか言われたもんな。
あれを脳内で再生すると涙が出そうになる。
項垂れる俺とは裏腹に神田の話は楽しそうにまだ続いていた。
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