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青春狂走曲13にしおりをはさみました!
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青春狂走曲13
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(神田紘斗語り)
牧村さんは島田さんと内輪の話を始めてしまい、俺は全くの蚊帳の外だった。
冷たい地面を眺めながら、上履きの先で小さな穴を掘る。知らない人名に耳を傾けつつ、話を総合すると牧村さんには娘さんがいるらしかった。あ、爪先に泥がついた。
俺には子持ちバツイチという単語は未知すぎる。雲の上だ。きっと化粧が濃そうで香水臭そうな奥さんだと勝手なイメージを思い浮かべた。
なんだか遠い存在に感じ、牧村さんとどうなりたいとか恐れ多くて、考えることさえ憚られた。憧れなのは変わらないけど、どうなんだろ。今後の展望が開かない。
完璧に俺から一線を引いてしまった。
「そろそろ葵君のいちゃいちゃタイムは終わったかな。神田、電話してみて。」
島田さんに顎で指図され、葵さんに電話をした。この人の方が見た目云々より、中身がよっぽどヤンキーな気がする。何するか分かんないから怖いもん。心臓に悪い。
「もしもし葵さん?……え、あ、上?」
上にいるよ、と言われて見上げると、俺と同じ制服を着た葵さんが上階から手を振っていた。葵さんは太陽を背負っていて、俺は眩しくて思わず目を細める。こんなかっこいい先輩が欲しかった。
「じゃあ、亮太さん、また店に飲みに来てくださいね。飲酒運転は絶対に駄目ですから。次こそ兄ちゃんに言いますよ。」
お尻の土を払いながら島田さんが言う。
「おう、またな。悠生さんによろしく言っといてくれ。神田もしっかりやれよ。」
「はーい。……しっかりやります。」
手を振りながら牧村さんとはあっさり別れた。しっかりやれ、の意味がよく分からない。俺ってそんなに抜けてんのかな。
校舎内にはさっきまでいた俺を探す人達はいなくなったようだ。
「あの制服姿……だからか……だから何回も電話しても出なかったんだ。あいつ……マジで変態だな。僕だって制服姿の葵君を堪能したい。ズルい。クソむかつく。」
歩きながら、ブツブツ島田さんが呟いたのを聞き逃さなかった。耳に光るゴールドのピアスが揺れていた。
国語準備室に行くのは始めてだった。熊谷先生には生徒指導室へ行けば会えたから、こんな校舎の端っこの離れ小島へ行く必要は無かったのだ。
「失礼しまーす……」
入ると深刻な顔をした熊谷先生が誰かと電話をしていた。声が怒っている様に聞こえる。
ボールペンのカチカチという音がイライラに合わせて押されているのが明白だった。
葵さんを見た途端、島田さんがいきなり抱きついたので、羨ましく見ていたら、肩を叩かれる。見上げると古文の片桐先生だった。片桐先生は落ちこぼれも関係なく平等に俺に接してくれる数少ない大人だ。
「熊谷の電話、君のことみたいだよ。時田先生に何かした?相当なご立腹らしいけど。」
「あ………んと、何かというか……」
ポリポリと頰を掻いた。視線が宙を舞う。
やっぱ怒ってますよね。
「おい、島田と神田。ここに正座しろ。早くしないと説教が長くなるぞ。」
片桐先生に出来事を説明しようかと思っていたら、電話を叩くように切った熊谷先生が、ドスの効いた声で言う。背中には黒いものを背負っていた。
逃げようとした島田さんの首根っこを掴み、無理やり座らせて、次はこっちを睨んできた。俺は、しずしずと黙ってその隣に正座する。敵わない相手には抵抗しないのだ。
怒った熊谷先生はおっかない。
あんまり見たことが無いのか、葵さんも遠巻きに引きつった顔で熊谷先生を注視していた。
だけど制服はよく似合っていた。
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