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熊谷家の人々10にしおりをはさみました!
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熊谷家の人々10
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(熊谷先生語り)
「はぁ?冗談も休み休み言え。こんなやつが恋人って男同士だろう。気持ちが悪い。」
親父の不快を露わにした態度に、みんなが黙り、動きが止まった。葵なんか身を強張らせて、顔面蒼白で泣きそうになっている。ある程度は予想していたが、俺は心底呆れた。いつもだとあっという間に沸点に達する俺だが、ここは場所が悪い。深呼吸を数回して、心を落ち着かせた。怒ってはいけない。葵を怖がらせてしまう。
「本気だ。この際だから言っておく。俺にはこの人と生涯を共にする覚悟がある。親父が軽蔑しても何を言っても変わらないし、構わない。認めてほしいとも思わない。今日は母さんに会わせる為に連れてきただけで、あんたには関係ない。俺たちは放っておいてくれ。」
眉毛をヒクつかせて親父は俺を睨んだ。予想できない出来事に怒鳴りたいのを我慢しているようだ。怒鳴られても殴られても俺は考えを変えるつもりはない。
ここが病院で無ければ間違いなく拳が飛んできただろう。
「な、何を言っているんだ。そんな道から外れた行為を俺は絶対に認めん。お前は仮にも教師だろうが。人の目もあるだろう。今すぐに浮ついた恋愛ごっこは止めろ。恥ずべき行為だ。」
「教師だから、男だから、とか決めつけはもうこりごりなんだよ。そういう考えこそ腹が立つ。誰もあんたの許しなんか必要としてない。」
段々大きくなる声に他の入院患者も遠巻きに俺たちを気にしだした。
「………父さん。ちょっと落ち着けって。ここは病院だ。母さんもまだまだ休息が必要なんだよ。兄貴も怒るなよ。だから親父に会わせるのはまだ早いって言ったじゃないか。」
和樹が仲裁に入るも、親父と俺の睨み合いは止むことはなく続いていた。
頭ごなしに否定するのは、この人が1番得意とする挑発行為だ。忌々しい。
「和樹も知っていたのか。お前が知っていたなら何故止めないんだ。こんなことが普通じゃないって分かるだろう。」
怒りの矛先は和樹へと向いていた。完全なとばっちりだろう。まあ、和樹に向いている間にこの場をどう収拾するか考えないと。
しかし『普通じゃない』とか『道から外れてる』とか『恥ずべき行為』だとか言いたい放題だな。好きになった人の性別で価値が決まる世の中(親父)の方がおかしいのではないか。そんな考えを口にしても火に油を注ぐだけだから、これ以上言うつもりは無かった。
「えっ………俺?一度決めた兄貴を止めるのは不可能だって。母さんより頑固なの知ってるでしょう。それに兄貴は大人で誰にも迷惑は掛けてないよ。この問題に俺はあんまり関わりたくないから。」
「和樹までグルになって、おかしいだろう。母さんも感化されているし、一体何なんだ。」
母さんは何も悪いことをしたと思っていない。澄んだ目でキョトンとしている。
この人は天然なのか、フリをしているのか分からない所が1番怖い。
何か意図がありそうな所がしたたかだ。
「………あの……すみません。俺、そういうつもりじゃなかったんで……帰ります。本当にごめんなさい……不快な思いをさせて、すみません……」
今までベッドサイドの椅子に小さく座っていた突然葵が立ち上がり、下を向いて鼻声で謝罪した。そして早足に病室を出て行く。
あっという間のことだった。
「……葵っ………」
「兄貴、父さんのことはひとまず休戦して、葵君を追いかけて。あれは相当傷ついてる。1人でどこかへ行ってしまう。居なくなってからじゃ遅いよ。早く……」
和樹に促されて直ぐに葵を追いかけた。
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