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side ハミド
テルの牧場で、馬を借り、海辺で遠乗りを楽しんでいた。
これもかなり訓練されたいい馬だと思ったので、手綱を離し、馬の首に掛ける。
俺は考え事もしたいので腕を組む。太ももで左か右にかけ、圧をかける。
右斜めにギャロップ(スキップのような駆け足)を、し始めたのを確認する。
やっぱりだ‥
今度は反対に圧をかけると左にギャロップ。
久しぶりにドレッサージュをしたくなり、パッサージュ(特殊な常歩)やピルエット(ぴょんぴょん飛ぶように一回転する)等をしながら、馬の背に揺られていた。
馬は馬でツルのように首を曲げながら、要求に応えてくれる。考え事か、まぁゆっくりしてくれ。そう、背中を貸してくれてるようだ。
「随分と、物憂げな馬術だな。俺が競技審査員なら、表現力は満点をやりたい。」
その声に驚いて振り返る。
「テル!これはいい馬だな。テルが調教したのか?」
「調教したのは俺だが、それはもともと競走馬だったんだ。肉になりそうな所を気性は素直で良さそうだったから、引き取って手元に置いた。ハミドは、相変わらずというか、さらに鍛えたのか?上半身がビクともしないから、ケンタウロスが海辺で舞っているかのような錯覚を覚えた。」
「テルに褒められるとは、思わなかった。そうか、こいつは走らないから、殺されるところだったのか、良かったな‥」
馬の首を撫でる。
競走馬は毎年八千頭程、生産されるが、勝てるのは1割にも、満たない。
維持費のかかる競走馬は、「乗馬になった」と、表向きは言われるが、多くは動物園等の餌にされる。
競馬界は、馬たちの生死もかかった産業社会なのだ。
テル程大きな牧場を経営していれば、更に情けなどかけずに経済動物として早やかに処理されてしまうものだが、この、馬はラッキーだっようだ。
暗い案件を前に、一筋の光を見るかのようだった。
「うちの殿下を、売るって話を聞きつけたのか?」
牧場に帰り、馬の手入れをしてからシャワーを浴び、クラブハウスに寄るとテル自らコーヒーを入れて俺を待っててくれた。
「あぁ、テルが経営に苦しんでいるとは信じられない。テルの牧場がなくなれば、生産界にどれほどの損害が被ることか‥分からないことだらけでこの目で確かめたくなり、来た。」
出されたコーヒーを一口飲んで不安を口にする。
「牧場畳むのは、本当だ。苦しんでいたのは、金もだが、それだけじゃないんだ。ハミドの父上と優勝してから、俺の出る馬、出る馬が注目されてな。この間エプソムの大レースでの事だった。俺の夢でもあったあの大レースで、初めて自分の馬が走る。しかも相性のいいハミドの父上の馬として。興奮して夜は眠れなかったよ。」
テルはそこから、急に俯き、そのことを思い出すのが辛そうに話を続けた。
「ハミドの父上はかなりの本命候補に挙げられて僅差の2着だったんだが、一着のとあるヨーロッパでは古い歴史ある国の女王に‥ヴィロトリア女王は君の父上にとんでもないことを言ったんだ。」
「父上はヴィロトリア女王に何と言われたんだ?」
「あなた方にも、金で買えないものがあるんですね、この大レースですわ、だとさ。日本から単身こっちにきて頑張ってたのも、君の父上の顔に泥を塗っちまった。他にも上手くいかないことか色々重なって嫌になった。俺の成功を妬むこの国の同業者にはつまらん嫌がらせを受けるし、この間のレースにしても、抗議をすればお前は勝ち組なのにまだ足りないのか、等と言ってまた俺を非難するだろう。」
テルは投げやりに言った。
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