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目が覚めると、知らねぇ部屋の中にいた。床の上に転がって、毛布1枚で寝てたみてーだ。
「痛、ってぇ……」
ズキンと頭の奥が痛み、思わずうめく。床の上で寝てたせいか、背中と左腕も痛ぇ。
起き上がると、くすくす笑う女の声が聞こえて、ギョッとする。
「あ、起きたぁ?」
ソファに座り、タバコ片手にくすくす笑ってる女は2人。2人ともに見覚えあるようなねぇような顔で、どうなってんだって混乱する。
見た感じ、少なくともラブホじゃなさそうで、それにはかなりホッとした。
一緒にいんのが、リオンじゃなかったことにもホッとした。さすがに2度目はねぇだろう。
「ここは……?」
女どもに訊きながら、床の上にあぐらをかく。
ささっと確かめると、昨日のスーツを着たままだ。ネクタイはほどいてるけど、財布もケータイもポケットの中にあって、取り敢えず安心した。
部屋の中をぐるっと見回すと、どうやらどっかのリビングみてーだ。8畳くらいのスペースん中にはソファセットとTV、それから店にあんのと似たような、観葉植物の鉢植えがあった。
毛布をさり気に畳みながら、ソファの女たちを観察する。
化粧の濃い顔に、艶のねぇ茶髪の巻き髪。ひらひらのミニドレスに派手なアクセサリーをじゃらじゃら着けてるとこ見ると、いかにもどっかの嬢らしい。
2人ともオレを見てくすくすきゃっきゃ笑うだけで、ここがどこなのか教えてくれるつもりはねぇみてーだ。
けど、イラッとした丁度その時、後ろにあったドアが開いて、「うおっ」と間抜けな声が聞こえた。
ドキッとしながら振り向くと、そこにいたのは案の定リオンだ。
「おっ、おはようございます」
ぺこっと頭を下げられて、「ああ……」と唸る。
どうなってんのか状況が分かんねぇ。ここがどこなのかも分かんねぇ。何があったのか、昨日どうにかなったのか、それすら記憶になくて頭を抱える。
「ここ、どこだ?」
低い声で訊くと、「寮、です」って言われた。
「寮……?」
どこのだ、って訊こうとした時、ドタドタ騒がしい足音が響いた。同時にギャハハと笑う話し声も聞こえて、ああ、と悟る。
店の寮か。
そう思った直後、リオンの後ろからドアがバァンと開けられて、スウェット姿の悠汰が部屋ん中に飛び込んできた。
「よお嵩、おはよー! よく寝てたなぁ!」
二日酔いの頭に、ヤツの騒々しい声はすげー響く。
「うるせーよ」
ぼそっと言い返すオレをよそに、悠汰はゲラゲラ明るく笑いながら、ソファの女どもの間にドカッと座った。
2人の肩に同時に腕を回す仕草は、あっけらかんとしてて、いやらしさは皆無だ。友営、友達営業を得意とするだけあって、その辺は演技でもねぇらしい。
「おはよー、悠君」
タバコを灰皿に押し付けながら、きゃっきゃと笑う女ども。悠汰の担当客か? いや、それは別にどうでもいーけど……。
「なんで寮に女がいんの?」
ズバッと訊くと、「泊まったから」って言われて「はあ!?」ってなった。
おいこら、あっさり認めたな!? 別に社会人だしオトナだし、枕営業やろうが同棲営業やろうが関係ねーけど、店の寮でいいのかよ?
じっと悠汰を見ると、「いーじゃん、いーじゃん」って軽く言われて、ため息をつく。
「お前だって泊まってんじゃん」
って。いや、そりゃそーだけど、記憶にねーし。泊めて貰ったのは有難ぇけど、キャストのオレと客の女とじゃ立場が違うだろ、っつの。
「部屋は余ってるし、いいんだよ」
ニカッと笑いながら言われても、イマイチ説得力に欠ける。オーナーは知ってんのかよ、と内心ツッコミ入れてると、更に言われた。
「リオンだって、しょっちゅう泊まってるもんなー」
「は?」
それは初耳だったから、モヤッとした。
バッとリオンを振り向くと、変顔で照れ笑いしててモヤモヤが募る。教育係のオレを差し置き、いつの間にか悠汰と仲良くなってんのも気分が悪かった。
けど、そんなオレの気持ちなんて、悠汰には通じねぇらしい。
「嵩が酔い潰れんの、珍しーな」
悪気のなさそうな口調で、純粋に楽しそうに笑ってる。
「……記憶ねーんだけど」
正直に言うと、「また?」ってリオンに言われて、ドキッとする。
顔を見ると、純粋にビックリしてるだけみてーで、責めたり呆れたりしてるようには見えねぇ。見えねぇけど……なんでかダメージがデカかった。
「またって何だよ? 前もあったのか?」
興味深そうに訊いてくる悠汰がウゼェ。
「お前、オレらがいたからいーけどさぁ、酔って女の子連れ込んで『記憶にねぇ』とか言うなよ?」
ズバッと抉るような説教垂れてくんのもウゼェ。
「んなことしねーよ」って言えねぇ、1ヶ月前の過ちもウゼェ。それ聞いてカーッと赤面してる、リオンの反応もウザかった。
じきに他の寮住みホストも降りて来て、リビングはぷち宴会みてーな賑わいになった。
寮に忍び込んでる女は2人だけじゃなくて、乱れた風紀にちょっと呆れる。
すっかり慣れた様子で、楽しそうに溶け込んでるリオンにも呆れる。更に呆れるのは、そのリオンがまだあのボロアパートに住んでるってことだ。
「お前も寮に住めば?」
隣にドカッと座り、リオンに告げると、「嵩さんこそ」って言い返された。
「オレはいーんだよ。つーか、寮なんかゼッテェ住まねぇ」
苦々しげに言い放ち、リオンの横顔に視線を向ける。
いくら家賃が安くて店に近くて、通勤が楽だとしても、寮住まいなんかゴメンだった。必要以上にホスト仲間と馴れ合うつもりはねーし、自分のペースが崩されんのもイヤだ。
例え一時仲良くしてても、ホスト同士、決別することもあるし。誰かに腹立てて、気分よく接客できなくなんのもイヤだった。
リオンはリオンで、思うところもあるらしい。
「オレ、借金あると迷惑になるから……」
ぼそっと言われて、1ヶ月前のあの事件を思い出す。
弁護士センセーに任せてっから大丈夫だと思うけど、過払い金についての決着がつくのは、まだ結構かかりそうだし仕方ねぇ。
迷惑だ、って。寮に入んのもためらうとか、今までどんな取り立てに遭ったんだって思うとイラッとしてくるけど、オレには関係のねぇことだ。
リオンはあくまで職場の新人で、同僚で、後輩で。それ以上でもそれ以下でもなかった。
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