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26にしおりをはさみました!
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「お前どうしたの、さっきからボケーッとして」
「え?あ、ごめん。何でもない」
和希が僕に歩きながらたくさん話しかけてくれたのだろうけど、今の僕の耳には届くはずもなくボーッとしていると、痺れを切らした和希は少し苛つき気味で僕に話しかけてきた。
申し訳ないっていう気持ちはあるけど、それ以上に大貴の事が頭を占領している。
これは和希に相談した方が良いのだろうか。
その方が僕の気分も少しは軽くなる気がする。そう思い、和希に話すことにした。
「和希」
「何?」
「僕ね、さっきホテルのロビーから大貴を見たんだ」
「まじで?だったら話しかけりゃ良かったじゃん」
「うん、僕もそのつもりで行こうとしたよ、でも、大貴の隣に女の人がいた。楽しそうに笑って、周りなんか見る気もない。傍から見たらあんなの美男美女のカップルだった」
「志村に限ってそんなこと有り得ないだろ」
僕だってそう信じたい。
でも最近は、大貴が僕のことを好きでいてくれる自信が前みたいにない。
浮気しててもおかしくない状況だし。
「そうかな」
和希の言葉を信じたい。大貴のことを信じたい。
それでも信じられない自分に腹が立つ。
「どうする?家帰る?」
今家に帰った所で、きっと大貴はいない。外にいたらまた大貴の姿を見るかもしれない。
「……帰る」
「分かった」
和希は僕の最寄りの駅まで送ってくれた。
「気を付けてな」
「うん、今日はありがとう。すごく嬉しかった」
少しぎこちない笑顔になってしまったけど、その気持ちに嘘はない。
「いつでも相談乗るからな」
そう言いながら手をヒラヒラさせて帰って行った。
和希なりに元気づけてくれたんだ、感謝しなきゃ。
「ありがとう」と心の中でもう一度お礼を言い、帰り道をゆっくり歩いた。
一人になると、やっぱり色んな考えが頭をグルグルと回る。
大貴のバイト先はここの駅の近くなのに、どうして三駅も行ったあそこにいたのだろう。僕の知らない女の人を連れて。
確かに大貴は優しいしかっこいいからモテる。そんなの僕が一番分かってる。
大貴は昔までだったら、女の人に誘われても断ってた。
ちゃんと僕が不安にならないように一つ一つ教えてくれた。
なのに、今日のことは何も聞いていない。
しかも僕、誕生日なんだよ?
誕生日にこれはキツい。せめて、せめて別の日にしてくれれば良かったのに。
自然と涙が溢れる。一度出し始めた涙は止まるということを知らない。
道端で泣きながら歩くなんて、振られた男みたいじゃん。
あぁ、でもそれもあながち間違ってないのかもしれない。
気付いたら家に着いていた。
僕は合鍵で鍵を開け、中に入る。
真っ暗な家は僕の心情を表してるみたいで、明るくする気にはなれなかった。
真っ暗のまま部屋に入り、ソファーを背もたれにし、膝を抱えて床に座り込む。
いつもは早く帰って来て欲しいと願うけれど、今日ばかりは帰って来なくたって良い。
顔を見れば色々疑問をぶつけてしまうと思う。
そんなの大貴が嫌になるはずだから、我慢するんだ。
気付かぬフリをして、何事も無かったかのように接すれば良い。
そう呪文のように自分に唱えてるうちに、僕は暗い闇の世界へと引き込まれた。
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