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夢見る小鳥にしおりをはさみました!
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夢見る小鳥
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小鳥には、時々見る夢がある。
見渡す限り真っ白な、まるで雲の中のような場所を小鳥は一人で歩いている。
少し離れた場所には、姫子と光が手を繋いで立っていて。
二人は穏やかに笑って、こっちにおいでと小鳥のことを呼んでいる。
だけど小鳥は、二人の呼び掛けには応えられない。
二人の方へ行けば、尊にもう会えなくなる、だからまだそちらへは行けないのだと告げて、ごめんなさいと謝罪する。
それでも二人は、ただ穏やかに笑って小鳥の事を呼び続ける。
まるで小鳥の声なんて聞こえていないみたいに。
*******
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れた自宅リビングの白い天井が視界に広がった。
どうやら昼食を食べた後、ソファーの上でうたた寝してしまったらしい。
時計の針は14時を示していた。
寝起きのぼんやりとした頭で、さっきまで見ていた夢の事を考える。
2年前の事故の後から、時々見るようになった姫子と光の夢。
夢の中の二人は、小鳥が二人の方へは行けないと言っても責めも怒りもしない。
だから小鳥はあの夢を怖いとは思っていない。例え夢でも、大好きな二人に会えるので、むしろあの夢が嬉しいくらいかもしれない。
うなされる事もなく、いつも静かに目覚めはやってくる。
だが目が覚めた後、小鳥の指先は緊張から冷たく強ばっていった。
夢を見るのは怖くない。
怖いのは、夢から覚めて隣に尊が居ない事だ。
冷えきった指先を左右かわるがわる手のひらで温めながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺める。
今日は快晴で日差しが暖かく、風もない穏やかな天気だ。
今日みたいな天気の日には、きっとシャボン玉が良く飛ぶ。
そう思い立つと、なにやら無性にやりたくなって、小鳥はキッチンへと向かった。
戸棚から紙コップとストローを取り出し、紙コップには食器洗い用の洗剤と水を注ぐ。
用意を整えベランダに出ると、ポカポカとした日差しが心地よくて目を細めた。
ストローをシャボン液に浸しそっと息を吹き掛けると、空に向かってふわふわとシャボン玉が飛んでいく。
光が当たって、シャボン玉の表面が虹色にゆらゆら煌めくのが綺麗でじっと目で追いかけた。
そういえば昔尊に、小鳥はシャボン玉に似ていると言われた事がある。
そう言った時の尊の顔は柔らかな笑みを浮かべていたし、小鳥はシャボン玉が好きなので悪い気はしなかったが、喜んで良い事なのかは微妙なところだろう。
ふわふわのんびり自由に漂っているのに、もの凄く繊細。
不用意に触れると、あっというまに壊れて消えてしまう。
シャボン玉みたいな人間なんて、何やらとても手が掛かって面倒そうだ。
尊と暮らしはじめて2年が経つが、小鳥は変わらず家事能力0で、身の回りの事も尊に任せきりな部分が多い。
大量に作った小さなシャボン玉が空に上っていくのを眺めながら、事故の後から世話になっている精神科医との話を思い出した。
「小鳥君はさ、多分自己暗示にかかってるんだと思うよ。」
小鳥は手先は器用な方なのだが、家事などの生活に必要な作業となると恐ろしく不器用になる。
それを尊が不思議がっていると医師に話すと、そう言われた。
「…自己暗示?」
通ううちにずいぶんと打ち解けた初老の男性医師が、穏やかに話を進めていく。
「そぅ。僕から見ても小鳥君は器用だし、自分の事は自分で出来るだけの能力がちゃんとあるはずなんだよ。」
「じゃあ、何で出来るようにならないんだ?尊とたくさん練習してるのに…」
首を傾げて疑問を口にすると、医師がゆっくりと説明を始めた。
「小鳥君はさ、お母さんに、一人じゃ何にもできない子で居てってお願いされて、言われる通りにしてきたんだよね?」
医師には小鳥が長い間、食事も外出も、その他生活に関わるほとんどの事が姫子無しでは成り立たないような状態で過ごしていた事をすでに伝えてあった。
確認するように問いかけられ、コクリと頷く。
「多分、今でも無意識に体がその願いを叶えるように動いちゃってるんだよ。」
小鳥は、無意識のうちに、姫子が望んだ自分ではなくなる事を拒否しているらしい。
何も出来ないままで居なくてはいけない。
出来るようになってはいけない。
出来るようになれば姫子が悲しむ。
そんな考えが、小鳥も知らないうちに、小鳥の心に染み付いているのだそうだ。
だから、家事や身の回りの生活に必要な作業となると、失敗するよう体が勝手に動いてしまっているのだと医師は告げた。
「それはつまり…俺はわざと失敗してるっていうことなのか?」
「う~ん、極端に言えばそうだね。でも、やりたくて失敗してるわけじゃない。だから、自分を責めたりしなくて良いんだよ。」
無意識な分、改善はなかなか難しいだろうが焦ってどうにかなる事ではない。
あまり重く考えず、自然と改善されるのを待てばいいのだと医師には言われたが、小鳥の気持ちはすでに重く沈んでいた。
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