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――“校内にいます”。
保健室の扉に掲げられたホワイトボードには今現在の保健医の動向が書かれている。校内、ということは例の件の見回りでもしているのだろうか。あの人はいないようだったが、幸いなことに保健室は開いていた。無断で入り込むことに抵抗はない。
「寝てろ」
委員長が俺をそっとベッドに下ろす。鬼と言われる委員長もさすがに病人には優しいらしかった。身体が冷えないよう布団を腹部まで引き上げてくれる。
「いいんちょ、ありがとう、ございます……」
半ばうわごとのように礼を述べる。意識が朦朧としていて、とても眠かった。しかし委員長の手間、瞼が落ちそうになるのをなんとか堪える。
それを知ってか知らずか、委員長はその大きな手で俺の目を覆い隠した。
「いいから寝てろ」
「……は、い」
暖かな体温にまどろむ。ふわふわとして、何もかもが心地よかった。
意識が落ちる前、ベッドがギシリと啼いたような気がした。
唇に、何か触れたような気も――。
意識が浮上する感覚に任せてうっすらと目を開ける。寮の天井より白いそれに目がチカチカとして、寝起きの穏やかな気分を害される。
ベッドの周りがオレンジ色のカーテンで間仕切られていたことから、ここが保健室だということが分かった。
……えーと、確か委員長に連れて来てもらったんだっけ?
寝たせいで前後の記憶が曖昧だ。しかし心持ちはよく、身体に残っているのは寝起き独特の倦怠感だけだった。
携帯で時間を確認すれば、今は六限の真っ只中。単純計算で二時間近く寝てたんだから体調も少しは回復するはずだ。
ベッドから半身を起こし、手を伸ばしてカーテンを開ける。
見知った背中がそこにあった。
「――起きたか」
白衣を纏った背中が振り向く。品のいい烏の濡れ羽色の髪が揺れる。スッと通った鼻筋に、髪色とは対照的な色素の薄い密色の瞳。いつ見ても恐ろしいくらい綺麗な人だと思う。
「体調はどうだ」
「うーん、まあまあってとこだな」
「どれどれ」
そう言うと、白衣の男――折原九郎がこちらに近付いてくる。
九郎は自分のおでこと俺のおでこを密着させた。「熱はないな」「そんなんで分かんのかよ」「分かるさ」そうして、俺を押しのけるようにベッドに腰かけた。
九郎は俺の実の兄で、この高校で保健医として働いている。もっとも、俺がその事実を知ったのは入学後の話だったが。
「委員長は?」
「俺が来たら出ていった。律儀なところは評価するが、アレもなかなか油断ならないな」
「油断?」
「明人は可愛いなっていう話だよ」
「……意味分かんねえんだけど」
脈絡の繋がりが何処にもない。口を尖らせれば、九郎は俺の機嫌を取るように軽く口付けを落としてきた。ついばむようなそれに応えると、熱い舌が割り入ってくる。
九郎とのキスは昔からのスキンシップの一環だが、九郎曰く「家族愛というより明人愛だな」――と。特に言葉に意味はないんだろうが。
小さい頃は疑問を抱かずに受け入れていた行為も、歳を取るにつれておかしいと思い始めたが――それだけだった。性欲は薄いが、その分いざ快楽を与えられたらいかんせん勝てず、気持ちいいからまあいいかと思っている。手を繋いだりするよりキスの方がいいのもそういう理由だ。
なんにしても兄弟だから相性がいいのかもしれない。キスで相性が分かるっつうくらいだしな。
――これがホモの分類に入るのかどうかだけが悩みどころだった。
「っは……、ん」
ざらざらとした舌の感触を楽しんで、唾液をないまぜにする。後頭部を捕まれ、より深く口内を蹂躙される。自然と力が抜けていって、九郎に押し倒されるような体勢になった。キスはまだ続く。
息が出来なくなって、苦しくて、溺れるような感覚が好きだった。それを知ってか知らずか、九郎はいつも俺を限界まで追い詰める。ようやく解放されたときには酸欠で意識が朦朧としているくらいだ。肩で大きく呼吸をする。
「っ、しぬ……、」
「ベッドの上で死ぬなんて男の本望だろ?」
「うっ、せ……」
まさしく俺を殺そうとしていたヤツが何を言うか。
九郎の目が獰猛な獣のそれに変わって、俺は思わず喉を鳴らした。
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