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melt.3(R-18)にしおりをはさみました!
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melt.3(R-18)
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「……………ふぁ、」
口からこぼれた生あくびに、友人たちは一斉にこっちを見た。
「うぉ、わり」
怯んで謝罪を零せば、友人たちは心配そうに眉を寄せる。
「いや、謝ることじゃねーよ」
「そーだぞ。てかそんなことよりお前、クマ凄すぎだろ。どんだけ寝てねーんだよ」
いくら精神的に慣れていようと、体の限界は誤魔化しようがなく。
睡眠不足が溜まれば溜まるほど、顕著にそれを表してしまう。
「やー、最近ついついネットサーフィンしちまうんだよな〜」
なんて、嘘だけど。
そんな時間があるならバイト増やすし。
「あー、まぁ、その気持ちはわかるけどよ〜。寝ないと早死にすんぞ〜」
そのまま、わしゃわしゃと髪をかき混ぜられながら、それはまずいな、とぼんやり思った。
いつかそういうことがあるとしても、恵太が大人になるまでは、せめて五体満足でいたい。
学校をやめれば、負担は減るんだろうけど。
そんなことがもしいつかばれて、恵太が気に病んだりしたら嫌だし。
「てか、今ねればいんじゃね?まだあと、20分くらい休み時間あんじゃん」
「食欲より睡眠欲って感じだしな〜」
言われた通りで、昼飯にと買った菓子パンは、半分を超えたところで食べる気をなくして。
ただ手元で弄んでいるだけだった。
「んー、でも寝たらそのまま放課後まで寝そう」
「いや、もうそれやばいだろ、はよ寝ろ」
「そーだ、起こしてやるし寝ろ」
「なんなら内藤によりかかっとけば?」
「は?なんだ急に」
「内藤ならいい壁になるだろ」
「お前ら、人をものみたいに…」
そんな他愛もないやりとりに、いらねーよって軽くそう言おうとしたはずなのに。
きっと、周りもそうするだろうと思っていたのに。
ぽすり。
「「「!!」」」
気付けば隣にいた内藤の肩にもたれかかっていた。
やらかしたかな、なんて後悔も続きはしない。
あー、ねむ。
「オヤスミ」
やっぱ、日常って、いつも通りっていいなと思う。
もう、自分の生活なんて、考えることも嫌なくらい、汚くてぐちゃぐちゃなのに。
「おー、ねろねろ」
「おやすみ〜」
かわらない温かさがそこにあるだけで、自分はまだふつうの高校生なのだと、そう思える。
勢いでもたれかかった肩と触れ合う頬が、無性に温かくて。
わけもなく、泣きそうになった。
……泣かねーけど。
ふ、と意識が浮上する。
「おーい、トモ〜」
「トモー!とーーーもーーー!智樹〜」
「起きろ〜」
ガヤガヤと自分に何か言っているのも、頬に触られているのもわかる。
わかるのに、目が開かない。体が動かない。
はやく、起きないと。
頭の中ではそうわかっているのに、どんなに力を込めても、まぶたはピクリとも動かなかった。
「うお、まじで智樹起きねーな。やっぱ、限界だったのかな」
「顔色も、クマもやべーしな」
「……保健室、連れて行くか」
そんな言葉とともに、ふわりと体が浮き上がるのを感じた。
「は?軽っ、なにこいつきもっ」
「え、トモ内藤とそんなに身長変わんねーよな?」
「まじ?俺にも持たせて〜」
いや、俺はおもちゃか。
今、目を開ければ。
そう言って、軽口で誤魔化せるはずなのに、どんなに焦っても体は言うことを聞いてくれない。
「うぉ、まじだ。俺でも持てるじゃん、やっば」
「こいつ全然くわねーもんなー」
そんな言葉とともに、頬をつつかれる感覚がする。
「…………もういいか。連れてくぞ」
「あ、ごめんごめん。内藤、任せるな〜」
「ん」
そう告げれば、段々と人の気配が遠ざかるのと、体が揺すぶられるのを感じて、運ばれているんだとわかる。
セックス以外で揺すぶられるとかいつぶり?
とか、思考までキモ。
意識は一応あるのに、いつまでも目を開けることができなくて。
背負われているため、全面的に感じる温もりと、等間隔に訪れる揺れに、意識まで心許なくなってくる。
だめだ。
ここで、こんな風に甘えることを覚えたら、一気に崩れてしまう気がする。
それなのに、意識はどんどん、泥舟が水に溶けて行くように、霞んで行ってしまう。
「すみません、こいつお願いします」
そんな掛け声をぼんやり聴きながら。
随分久し振りに、背に感じた柔らかい感触を最後に、意識は完全に溶けていった。
「!!!!!」
「うぉっ、」
ガバリ、勢いよく起き上がる。
くらりと眩暈がして倒れこみそうになるのを、気合いで押さえ込んだ。
ポケットに手を突っ込んで、時刻を確認しようとすれば。
……は?スマホがない?
「探し物はこれか?」
思考を読んだように、目の前にぶらさがるのは、見慣れた俺の携帯。
それを奪うように受け取って、時刻を確認した。
"2:30"
表示された時刻に心の底から安心して、そこでハッと気付く。
…………誰か、いる?
おそるおそる横を見れば、無表情でこっちを見る、恐ろしいほどに整った顔をした男がいた。
芸能人みたいだ。
「……あ、えっと」
混乱して、どうすべきか迷っていると。
「どう言う状況か、覚えてるか」
端的にそう尋ねられた。
……確か、教室で寝ろって言われて。
起きられなくて、内藤にはこばれて……?
と、言うことはここは。
「……保健室?」
「ああ、お前が目を覚まさないから置いてやってくれと頼まれた」
「…………そうですか、ご迷惑をおかけしました」
教室に戻ろうと、地面に足を下ろせば。
「待て」
端的に告げられ、腕を掴まれる。
「お前、持病もちか?」
「は?」
「意識を失って、全く目を覚まさないなんてよっぽどだろ」
「……最近、寝るのが遅かっただけです」
さっさと教室に帰りたいのに、思うようにいかなくてイライラする。
大体、保健医ならその辺りの情報、知ってるんじゃねーの。それに、俺が持病もちなら、すでに何度もここにお世話になっている筈だろ。
そんな思考を読んだように、男は言った。
「短期の代理だから、あまり情報はしらなくてな。少なくとも、持病もちの生徒の話なんて聞いてないが、それならそれで、お前病院行った方がいいんじゃないのか」
なるほど、代理か。
それはラッキーだ。
こいつが短期の代理だと言うなら、名前さえバレなければ目をつけられることもないだろうし。
ここで多少荒い対応をとったって支障もないだろ。
「……ほんとに、最近の生活サイクルがひどかっただけなんで。以後気をつけます」
無愛想にそう言って、さっさと手を振りほどいて保健室を後にした。
後ろからまだ何か言いたそうな気配を感じるも、振り返ったりしない。
……はぁ、やっぱめんどくせ。
次から気をつけよ。
なんて、その時はそれで終わりだと、そう思っていた。
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