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ある夏の朝
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朝目覚めたとき、どこかのホテルらしき部屋に一人だった。隣に並んだ白い枕とシーツに誰かがいた形跡はあるがすでに冷たく、最初からいなかったのではないかと思わせる。白田は体を起こして冷房のおかげで快適な室内をぼんやり見回す。探していた眼鏡はベッドからでも手の届くボードの上に置いてあった。手に取りかけるといつもの慣れた感覚に落ち着く。
シャワーを浴びるために床へ降りるとまだ酒が残っているのかふらつき、倒れないように素足をぐっと踏みしめた。のろのろと裸のままバスルームへ行く途中で自分のリュックと服がソファーに置かれているのを発見して足を止め、そこから下着を手に取り再び歩き出す。
ここがどこのホテルかはわからないが、あの店の近くだろう。水上に支払いは済ませたと言われた気もするが、それも確かではない。幸いまだ午前中で、今から帰れば日が昇る頃に眠りにつく先生とは顔を合わせずに済む。
手早くシャワーを浴びて、体のどこにも情事の痕跡がないことを確認する。水上の言う通り、黙っていればなかったことになるのだろう。
「あれ、」
ぽろぽろと落ちてくるのを手の甲で拭う。なぜ涙が出るのか。キスすらしていない、ただの一晩の遊び相手のことなど水上はもうとっくに忘れているだろう。
「ただ今戻りました。」
小さく呟き玄関を閉める。もちろん返事など期待していない。助手とは名ばかりのただの住み込みの家政夫の身では合鍵を持たされていても肩身がせまく、いつものように内鍵をかけて身を縮めそそくさと靴を脱ぐ。今は特に存在を消すようになるべく静かに行動する。
「おー、おかえりい。」
スニーカーを揃えて端に寄せるために下を向いていた白田の肩がびくっと動く。足音がそばで止まる、まさかだがわざわざ昨晩のことを聞くためだけに起きていたとしたらとても恐ろしい。ひきつる頬を悟られないようにゆっくりと顔を向ける。
「お、おはようございます。」
「ああ、おはよ。今日もあっちいな。お前、朝帰りとはやるじゃねえか。」
壁にもたれて腕組みしてる男は据わった目で徹夜した不機嫌さを隠しもしない。締め切りに追われている時はいつもの事だが、その締め切りはまだ先のはずだった。
「コーヒー飲みながら土産話でもきいてやるよ。」
とっとと来いと顎で示し、仕事部屋兼用のリビングへ向かう。その大きい背中を絶望的な気分で見ながら、白田はコーヒーを入れるために慌ててキッチンへ向かった。
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