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41〔裏番外〕ゆくえ……
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百目鬼「茉爲宮さん、そういう話は上で……」
興奮気味の清史郎を落ち着かせ、まだロビーだからと伝えると、彼はマキに謝って息を整えた。
一方、固まるマキは、その瞳がみるみる色をなくしてヘラヘラと微笑む。
マキが今何を感じているのか手に取るように分かりながら。
俺は、こうするしかなかった。
さっきかけた言葉が精一杯。
あとは、ことの成り行きを見守るしか出来ない。
そういう〝約束〟だからだ。
俺たち3人は、ホテルの上層階に移動した。
話をするだけには広すぎる部屋に入り、ルームサービスでそれぞれ飲み物と、清史郎がマキにフルーツを頼んで持ってきてもらった。
長方形のテーブルに、向かい合うように清史郎とマキが座り、俺は横から2人を眺める。
マキは、ロビーにいた時の不安げな表情を消し、ヘラヘラ微笑む茉爲宮優絆になっていた。
清史郎「改めて、今日はいきなりですまなかった」
マキ「ふふ、そんな何度も謝らないで下さい。家族でしょ」
キレイに微笑む茉爲宮優絆、取り繕った笑顔。
実際はどうなんだろう?清史郎を悪く言うことはないマキは、過去を捨てようとしていた。それは実は嫌悪感からなのか?それとも、お得意の自己犠牲が、清史郎のためだと嘆いているのか…。
清史郎「いや、今回のことは、私の方に落ち度があった。まさか成一があんなことをしでかすとは夢にも思わなかったし…」
なんだ、成一は案外上手く猫かぶってたのか。
俺から言わせりゃ胡散くささの塊だったがな…
清史郎「それに、まさか成多郎(せいたろう)が、病気だからと遺書を制作していたなんて…」
マキ「…」
清史郎「しかもそれを息子の成一に話してしまうなんて軽率な…。まさか今更、優絆を実の息子だと公表して財産を成一と半分にだなんて…、野心のある成一が認めるわけないし、私からも優絆を取り上げようだなんて……」
茉爲宮優絆は、出生届が出される前に茉爲宮家で家族会議がなされ、外人色の強い茉爲宮優絆を、社長の愛人の子として認めるにはリスクが大きく、当時独身の清史郎が実子として役所に届けた。
つまり、書類上の父親は清史郎であり、誕生日も偽り。名前に関しても、どうもマキの生みの親の〝マリア〟と関係しているらしく、そういう大人の都合の中で、茉爲宮優絆は存在した。
だが、現在、病気のマキの実父の成多郎が、遺書にマキが愛人の子で、血の繋がりがあるとする書類を制作。マキが実家を家出して何年も経ったというのに、こうして事態が悪化したのだ。
そして、成一がここまで逆上したのにはもう一つ理由があった。
マキ「取り上げる?」
清史郎「成多郎は、優絆を会社の跡取りにしようとしていた」
マキ「えっ…、成一さんが継いだんじゃ…」
清史郎「成一は傲慢なところがあった、1人では会社を経営していけない。だからだ、優絆にもどってきてもらって、ツートップでやらせようとしていた…」
罪滅ぼし…。
今まで何もしてやれなかったからとかなんとか理由をつけていたが、自分勝手な人間は、どこまで行っても自分勝手だ。本当に反省してマキのことを…茉爲宮優絆の事を思うなら、まず、話を聞くべきなのに…。
マキは、立派なカウンセラーを目覚めして今は大学で学んでいる最中。1人で自分の将来を切り開いて前進していたのに…。
清史郎「でも、もう大丈夫だから。そちらの百目鬼さんが立派な弁護士先生を紹介して下さり、成多郎を納得させた。成一も二度と優絆に危害を加えさせないようにして下さった」
清史郎の説得にも時間がかかるかと思ったが、清史郎は、過去を悔やんでいた。茉爲宮優絆が家出するまで、自分が茉爲宮優絆を傷つけていたと自覚がなかったらしい。それに、決定打となった結婚も、茉爲宮優絆に母親を作ってやりたかったとの親心だったと言っていた。
離れていた間何度も後悔して、見つけ出したら、必ず懺悔して、必ず今度こそ優絆を幸せにしてやると、固く誓っていたそうだ。
清史郎「食べれるようになったんだね…」
茉爲宮優絆を心から心配する清史郎は、涙を浮かべてそう言った。
マキ「ご心配お掛けしました。私、もうすっかり元気ですよ。百目鬼さんが良くして下さるから」
清史郎「優絆…、正直に答えてくれ、何か困ってることはないかい?心配事とか…」
マキ「…、何も。百目鬼さんは毎食手作りの食事を用意して下さるし、身の回りのことも完璧で、お仕事もバリバリこなされてるし。…至れり尽くせりで、私はお世話になってばかりです」
清史郎「毎食手作り…」
清史郎が驚いて俺を見る。
無理もない、俺の顔で家事が出来るなど想像もできないだろう。俺も、定食屋の息子じゃなかったり、あの大家族の一員じゃなかったら、ここまでにはなってなかっただろう。そうなったら、マジで怖いだけのヤクザだな……。
清史郎「……私は、また優絆と一緒に暮らしたい。…ずっとって訳じゃない!お前が成人するまでの数ヶ月でいい!……いや、お前が許してくれるなら、お前の側でお前を見守っていたい…。百目鬼さんや、お友達を家に呼んで騒いでも構わない、お前と過ごせなかった日々を、どうしても…埋めたい……、すまない…」
欲と理性の間でもがきながら、何より茉爲宮優絆の気持ちを尊重したいと言い聞かせて戦ってる。
その悩む気持ちは、良くわかる。
欲と理性とマキの気持ち。俺は一つのことすらまともに出来ないのに、三つのバランスを考えなきゃならないなんて、バミューダ海域で一生一つの犠牲も出さないで旅をさせろというくらい難しい。魔のトライアングルに沈まないようにだなんて…一生無理そうだ。
清史郎「毎日忙しいのに毎食作って色々面倒を見てくださる百目鬼さんは優しいが、大変だろう。私と一緒に暮らせば、百目鬼さんも手が空くし、お前にもなんの不自由もさせない。私と一緒に暮らして百目鬼さんの負担も減るし、自由にできる時間も増える。そうすればいい。…いい案だと思うだろう?お前が自由に選んでいいんだぞ。私は、お前の幸せだけを願う。…だから…、私と一緒に暮らそう」
マキ「…」
マキが、チラリと俺を見た。
その表情も、その瞳も、無機質な感じがして何を考えてるのか分からない。
俺は、言葉を発さなかった。
ただただ、マキと清史郎の話しを聞いているだけ。
マキ「………」
押し黙るマキは、俺を見つめていたが、俺が何も答えないのを見ると、諦めたように視線を下げた。
うつむくマキは、下唇を噛み締め身を縮める。
清史郎「…優絆…、すまない。お前を困らせたいんじゃない。私が優絆と一緒に暮らせばお金も時間も出来て、好きなことを好きなだけできるようになるよと、言いたかっただけなんだ。お前の成長も見たいし、甘やかしてやりたい。小さかったお前に随分我慢させたから…、今度こそと思って…、だから、正直に言ってくれていいんだよ。お前の気持ちを知りたいんだ」
マキ「……」
清史郎「……百目鬼さんからは、何も聞かなかったのかい?」
マキ「……なにも…」
マキの消え入りそうな絞り出した声より。清史郎はマキの言葉を聞いてホッとしたように喜んだ。
マキ「………清史郎さん」
清史郎「なんだい?」
興奮気味に返事した清史郎は、マキからいい返事が聞けることしか考えてない。それぐらい、自信と覚悟を持ってる。
マキ「…少しでいいから…百目鬼さんと2人で話をさせて下さい…」
清史郎「…優絆、隠し事は無しだ。私の前で話せばいい。百目鬼さんから、2人の関係は聞いてる。百目鬼さんと私は、もう話合ったから」
マキ「……ッ!!」
マキの肩が小刻みに震えてる。
膝にある手は強く握り込まれ、うつむく顔は何を思っているのか…。
俺には、まだ、発言権がない…
マキ「…話し…合った…?…じゃあ、もう、決まってるってこと…?…なら…〝僕が〟決める意味ある?」
マキ…。
俺の言った言葉を思い出せ…
マキ「自由にって……、何?…僕は…、僕は…」
マキは、右手首につけてる俺がプレゼントした腕時計を左手で握り締めて爪を立ててギリギリとひっ掻く。
まるで、自分の心にそうしているかのように…
マキ「何度も言ったのに……」
ああ、何度も聞いた。
何度も願うように…
マキ「百目鬼さんは…」
俯いていたマキが顔を上げ、俺を睨むように見つめる。その瞳はマキの心情を表すように複雑に揺れて表情をゆがませる。
マキ「…同意したってこと?…僕が要らなくなったの?…け、ケンカが増えたから?…僕が甘えてばかりだから?…我儘ばかり言ったから?…〝私が〟…いい子じゃないから?…」
百目鬼「…」
マキ「……なんで…何も言ってくれないの?…百目鬼さんの口から聞かなきゃ…分からないよ…。
神さん……何か言ってよ……」
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