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恐る恐る扉を開ければ、もはや傘など邪魔にしかならない凄まじい嵐が吹き荒れていた。
一応はさしてみようと試みたものの、予想通り全くもって意味の無い棒切れに思わず舌を打つ。
……ついてないな。
仕方なくジャケットを脱いで鞄を包むと、何年ぶりかの全力疾走で急いで車に飛び込んだ。
エンジンを付け、ついでにまだ92%はあるスマホを充電器に挿して
乾いたのみ口が再び雨水をためた可哀想なエナジードリンクは……見ないふりだ。
無意識のうちに吸い込んでいたジメジメとした湿った空気を、車内いっぱいに吐き出した。
忙しなく光り続ける厚い雲と、バケツをひっくり返したような豪雨。
いつ停電するかもいよいよわからなくなってきた天気の中、果たして俺は無事に家まで辿り着くことが出来るのだろうか。
時折メガネを上げて霞む目を擦ってみるが、あまり意味はなかった。
ただでさえ最悪な視界の中、仕事終わりの目はなかなか焦点を合わせてくれない。
事故だけは起こさないようにしないとな。大怪我をした血濡れ雑巾は何としてでも避けたい。
…フラグじゃないぞ、これは。
ワイパーを過去最速の全開モードに切り替えて
慎重に、慎重に車を進めた。
垂れ流しのラジオは、近年稀に見るこの大嵐の被害状況を淡々と読み上げている。
既に2、3隣の市では落雷による停電被害も相次いでいるようだ。
この辺りも、きっと危ないな。
1メートル先すら見えない景色に何とか慣れてきた頃、確認もせず伸ばした手が空気を掴む。
普段ならばドリンクホルダーの端にスペースを設けてセットしてあるそれが無いのだ。
……おいおいジャケットに煙草入れたままじゃないか。
「……はぁ。」
まあ、そうだろうなとは思ったが。
その身を犠牲に通勤鞄を守ったジャケット。勿論ポケットに仕舞われていた煙草が無事な訳が無い。
わざわざ開けて確認する必要も無いほどに
箱からして、既に中身の生存率は絶望的だった。
買ったばかりなのに……まだ数本は残っていただろうに。
もしこれが、半分以上残っていようものなら日向で天日干しにでもしているところだが
…………数本、ならまあ…。
値上げ早々のやらかしに、心のダメージはかなり大きいのだけれど。
通い慣れた道のりを、更にゆっくりと前進する。
危険を侵してまで外出する阿呆も少ないようで、金曜の夜といえばこの辺りは決まって渋滞しているというのに、今日はちらほら対向車線に車を見かけるのみだ。
華金とはいえ、こんな嵐に吹かれてまで遊びに出る物好きは少ないという事か。
信号を超えれば、見慣れた緑の看板が目に留まる。
何処も彼処もシャッターを下ろされて閑散とする街並みの中、一際目立つその灯り。
24時間営業のここばかりは、雨ニモマケズ風ニモマケズ…雷にも、梅雨の蒸し暑さにも負けてはいられないのだろう。
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