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76.にしおりをはさみました!
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76.
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海くんと、剥き出しの感情の話がしたい。
本当は海くんにもっと触りたい。
もっとしなかったのは、止められなくなるから。止められなくなると、やり方を知った今、最後まで止まらない。そうして海くんを傷つけたくないと思っていた。
けど、そんな頭の話は置いておこう。
素直にどうしたいと思っているかを伝えよう。
と、決意したのに海くんには避けられ続けた。
返事すらまともにしてもらえない。こんな状態だからお昼も放課後も逃げられるし、メッセージの返事は来ない。
地面に埋まりそうだった僕は、たぶんもう地中深くに潜っている。それでも、挨拶は欠かさない。
今では全部が大好きになった海くんの、への字に曲がった唇がおはようと言ってくれる日を待っている。
何日避けられたかを考えたくなくなった頃、球技大会が行われた。学年別に日を分けて行なっている球技大会、2学年が1番最後だった。
球技大会どころじゃないのが、今の僕だけど。
「唯斗」
「え、海くん?おはよう」
「球技大会、終わったら話しよう。逃げないから」
「うん。僕も、ちゃんと話をしたい」
海くんは、やっぱり泣きそうな顔をしていた。
傷つけなくないって言いながら、きっと僕は海くんを泣かせた。海くんを傷つけた。
傷つけたくない気持ちがいくら本音だとしても、噛み合ってなきゃ傷つけてしまうこともあることを深く思い知った。
その日の球技大会、サッカーに出ている僕は時間がある限りバスケの試合を見に行った。海くんが出ているからだ。
試合の時間がかぶることもあって全ては見れていないけど、海くんは今まででは考えられないくらいバスケに取り組んでいる。
走るのでさえ危なっかしい海くんが、あんなボール飛び交う中にいると言うのはどうも落ち着かない。顔面キャッチもあり得るのが海くんだ。
サッカーの最終試合を終えて、バスケコートに戻る。
バスケも試合が終わった直後のようだった。海くんとクラスメートは、みんなでお疲れ、と声をかけあっていた。クラスメートは僕を見るなり岡崎頑張ってたよ、と言ってきた。そんなの知ってる。運動が苦手な海くん、とくに球技が壊滅的だ。
体育の授業でバスケをしてても、ボールに触りに行ったりなんてしない。なのに、今日の海くんは、ボールを触っていた。揉みくちゃなドリブルの中には突っ込んでいかなかったけど、それでもボールを見ていた。ボールがくるチャンスを見ていた。
海くんは、僕と話そうって思ってくれた。いつになく球技に向き合ったことにどんな目的や意味があったのかまでは分からないけど、海くんはきっとこうして逃げない姿勢を見せているんだと、僕は何となくそう思った。
苦手でもいつも真面目に取り組んでいる、だけどそうじゃない。
真面目にやってるんじゃない、今日は頑張っていた。それをきちんと、僕は見た。
僕は好きな人を傷つけた。
その人は、それでもこんな僕と話をする機会を作ろうと頑張ってくれた。
傷つけたくないという気持ちは忘れないけど、海くんの気持ちもしっかりと考えて。
今度はきっと、傷つけない話をしたい。
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