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淫魔くん、襲い受け⑤
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確かに、玉木はたまにケーキをいくつか持って帰ってくるときがある。
食べるのも躊躇われるようなとびっきりお洒落なものだ。
毎回同じお店のロゴが箱に書いてあるため、てっきりルイがそのお店のケーキが一番好きだから買ってきてくれているのだと思っていたが、まさか玉木が作っていたなんて。
驚愕の事実に、ルイはあいた口が塞がらない。
その一方で玉木は、気付いてなかったことに少し呆れつつも、ルイが来てからはほとんど料理をすることもなかったし、広めのキッチンがある部屋にしたものの自宅ではお菓子など作らないから気付かなくても仕方ないか、とも思っていた。
(いや、まあでもどう見ても定期的にケーキを買って帰るようなガラではねえだろ俺は…)
ルイにとって自分はどう見えているのか、知りたいような気もするがちょっとズレている淫魔からはとんでもない答えが返ってきそうで身震いした。
未だ整理ができていないルイを横目に、ずずっと味噌汁をすする。
「そっか、そっかぁ…あれ全部玉木さんが作ってたんだねえ…」
「正確には俺一人じゃねえけど。何人かいるから」
「へへ、ぼく玉木さんの作るケーキだぁいすきっ!初めて食べたときは感動したなあ…ほら、あのイチゴのやつ!クリームもふわふわで甘くて、ずっと食べてたかったんだあ…」
「…さいですか」
ルイは味を思い出しているのか、うっとりとした表情で天を仰ぎ見る。
人間界にきて、初めて食べたスイーツが玉木が持って帰ってきたイチゴのショートケーキだった。
あの時の衝撃は凄まじく、以降ルイの好物の座にはピノが作ったクッキーを押しのけてショートケーキが君臨した。
感動と興奮がおさまらずいかに玉木の作るケーキが素晴らしいかを語るルイを置いて、夕飯を食べ終えた当の本人はさっさと風呂場へと向かってしまった。
若干の照れ隠しもあっただろうが、そんなことには気づかずまたしても素っ気なくされたように感じたルイはしゅんと落ち込むのだった。
会えない間、ずっと待ち焦がれていたからか思い描く玉木は随分と優しかったように感じたが、もともとあんなものだと言われれば納得してしまう自分もいる。
けれど、同じくらい玉木も寂しがっていてくれたのではないかと考えていたお花畑のルイは、少し不満気だった。
(まあ、玉木さんお仕事忙しかったし、仕方ないけど…)
複雑な心境を抱えながら、洗い物をしていると風呂から上がった玉木がタオルで髪の毛を拭きながらキッチンへとくる。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、蓋を開け口をつける。
なんてことない動作なのに、ルイはその一連の流れに釘付けになっていた。
髪の毛から滴り落ちる水滴だったり、上気した頬、ゆっくりと凹み、そして戻る喉仏―――。
そのすべてが、ルイにはなぜか妙に扇情的に映った。
「…なーに見てんの?」
「えっ?!い、いや!なんでもない!ぼ、ぼくもお風呂!入ってくる!」
じっと見つめていたことがバレ、ルイは逃げるようにキッチンを後にした。
洗面所のドアを閉め、一人になったところではーっと息を吐く。
「…ぼく、どうしちゃったんだろ…」
ただの日常の一コマなのに、邪な気持ちを一瞬でも抱いてしまったことにショックを受ける。
いくら淫魔とはいえ、今までこんなことなかったのに。
初めての感情にルイは戸惑いつつも、熱い湯船に浸かる頃にはそのショックもかなり薄れていた。
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