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196にしおりをはさみました!
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196
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「結城、女将に怒られたと聞いたが大丈夫か」
「有坂ぁ」
大浴場を出て廊下を歩いていたら、後ろから有坂に声を掛けられた。
今日一日ずっと有坂を見ていて全然気づいてくれなかったのに、なんでこのタイミングで優しくしにきたんだ。
女将さんにズタボロに抉られた心の傷が、じわりと沁みるように癒えていく。
「もうダメだ。有坂に可愛がってもらわないと俺もう無理かもしれない」
力無くそう言ったら、有坂の顔がギクリとしたように強張る。
言ってからハッと気づいたが、そういえば今有坂は絶賛欲求不満中じゃなかったか。
明らかに有坂の視線がどこか座ったようにスッと色を変える。
ドキリとしたら、手首を掴まれた。
「こっちへ来い。少し話をしよう」
本当に話だけで終わるのかと疑問になるような熱い手に引っ張られる。
旅館外に出ると、湯上りのおかげか夜風が涼しい。
夜の観光街は昼間とは雰囲気が違って、道端に等間隔に置かれた行燈が綺麗だ。
ぐいぐいと俺の手を引いて歩く有坂に小走りについて行く。
いつも気遣うように俺の手を引いてくれるのに、今日はやたら早歩きだ。
「な、なあ。まだ禁止令解けないのか」
「ああ。そんなにすぐ解けては反省にもならないからな」
旅館の中で有坂と堂々と話せないのは、やっぱりめちゃくちゃ不便だ。
まあでも確かに今の状態の有坂なら、ある意味禁止しとかないとまた旅館のどこで襲われるか分からないけど。
そう遠い距離でもなく、旅館横の路地裏に入ると有坂は足を止める。
暗がりの中で壁を背にして有坂を見上げると、じっと真剣な眼差しが落ちてきた。
まさかこんな場所で何かしてくることは無いと思うけど、相変わらず視線はめちゃくちゃ強い。
「そ、そういやあの話したのか?…だ、大学の話」
食い入るような視線から逃れるように話を振ってみる。
今回帰省した一番の理由だけど、なんだかずっと喉にモヤモヤが詰まったみたいで気持ち悪い。
早くちゃんと安心できる言葉が欲しい。
有坂は俺と同じ大学に行ってくれるって言ったから、きっと大丈夫だとは思ってるけど。
今だって俺の手首を掴んでいる手はすごく熱くて、有坂の感情がビリビリと伝わってくるみたいだ。
「いや、まだだ。繁忙期が終わり次第その話をする予定だ」
「そ、そっか」
「…なんだ。不安になったのか?」
そう言われて、思わず視線を彷徨わせてしまう。
修学旅行で聞いたあの話があまりにも衝撃的すぎたせいか、俺の中ではまだ思い出すだけで足が竦みそうになる。
あの時の絶望感と恐怖心はどうしても忘れられない。
有坂がいなくなる可能性なんか、早くなくなったほうがいい。
「だ、だって。女将さん怒ると怖いだろ。も、もし有坂が怒られて気が変わっちゃったらって…」
そう言ったらクスリと有坂が笑った。
笑いごとじゃねーぞ。
「先ほど怒られたのが効いているのか?」
「マジで怖かったぞ」
「まあ分かるが…そうだな。どの道叱られることはもう覚悟している」
「えっ、し、叱られる確定なのか」
「…さすがにな。だが心配するな。今更お前を一人にしようなどと思ってはいない」
有坂が分かってくれてる。
俺を一人にしたらダメな事、ちゃんと分かってくれてる。
もっとちゃんと分かって欲しい。
絶対一緒にいないといけない事。
少しでも俺から離れたらダメな事。
じっとその目を見つめたら、応えるように有坂の手が腰に伸びてくる。
俺の顔に影が掛かって、優しく目蓋に口付けられた。
「...あ、話だけじゃなかったのか」
「触りたい。お前が足りない」
「――っ」
率直な言葉にビリビリと背筋に甘い感覚が突き抜ける。
一瞬で顔に熱が昇っていく。
「少しだけだ。また見られでもしたら今度こそ言い訳も立たないからな」
言葉と同時に身体を抱きしめられた。
大きな体にすっぽり包み込まれて、いっぱいに広がる有坂の香りに胸が詰まっていく。
すぐに俺も背中に手を回した。
「す、少しじゃなくていいけど」
そう言ったら腰に回る手に力が籠る。
身体が浮き上がりそうなほど強く引き寄せられて、感情が剥き出しになったような愛情に驚く。
「あ、有坂。息が出来な…っ」
「っ…ああ、すまない」
ハッとしたように力が緩んだが、まるで我慢していた感情が溢れてしまったような行動だった。
それから少し遠慮がちになった手が俺の髪を撫でる。
優しく髪を梳かれて、ホッとして胸に頬を寄せる。
「大丈夫。有坂が女将さんに怒られたら俺が慰めてあげるからな」
「…それは助かるな」
「めちゃくちゃ怖いぞ」
「知っている」
髪を撫でられる暖かさを感じながら、ふふと表情を緩めて笑う。
またキュッと強めに抱きしめられて、くすぐったくて幸せだ。
「…女将に怒られたとはいえ、また弟たちと遊んでくれたんだろう?今日はすまなかったな」
「えっ?う、うん。まあ別にいいけど」
「去年も結城は子供たちと遊んでくれていたし、面倒見がいいんだな」
全然鬼ごっこじゃないしむしろあっち行けって追い払ってたけど、まあ有坂が褒めてくれるならそういうことにしておく。
キッズに関わるとろくなことがないってムカついてたけど、結果オーライだ。
「ま、まーな。あ、でもなんか変な事言ってたぞ」
「なんだ」
「琴乃と有坂がどーのって。なんかマセガキみたいな事言ってたけど――」
何気なく言いながらふと有坂の顔を見上げる。
あれ、なんでそんな複雑そうな顔をしてるんだ。
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