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18歳以上ですか?
③にしおりをはさみました!
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③
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すみません前言撤回します。
「くそぅ…っ、」
寝られん!!
耳に指突っ込んでも睡魔が襲ってくると耳から離れてそしたらもう破廉恥極まりないそういう音が遠慮なしに部屋の外から聞こえてくるもんだからまたそれで目が覚めてまた耳に指突っ込んでも睡魔が襲ってくると耳から離れてそしたらもうはr(以下略)
仕返しか、あの日の仕返しなのか…っ。
ていうか俺もあの日、こ、こ、こんな破廉恥な声を出してたとか死んでも認めない俺はもっと絶対小さい声だったしこんな獣が叫ぶような下品な声じゃなかったと信じたいというかそうであって欲しいというかそうだった!!
てかどんだけ長い時間やってるんですか。
叔父の体が心配でなりません。
シーツにくるまって何とか外界との音を遮断しようと試みるが、さっきも説明した通り欲している睡魔が降臨すると逆に寝られない状態になってしまうという非常におかしな事になっているわけなんですが。
これはもうアレだ、ティッシュを耳に詰め込むかコンクリで耳の穴を完全に塞いでしまうしか寝る手段は得られないようだ。
うんまあ、今回は手頃なティッシュにしておこうか。
そう思って両耳に指を突っ込んだまま起き上がり、机の上にあったティッシュを取ろうと試みる。
しかし、耳の穴に入るくらいのものを捏ねるには、当然手が必要になる。
少しの間だけ我慢しないといけないのだが、聞きたくない。
あの日の破廉恥極まりない自分の声を人様に聞かれていたという羞恥がこれでもかと我が身を襲ってくるからだ。
さてどうしようかと上半身を起こしたまま葛藤していれば、枕元にあった携帯がチカチカと光を放ち始めた。
暗闇の中でそれは必要以上に明るく室内を照らし、耳に指を突っ込んだまま俺は携帯を覗き込んだ。
「………」
そして表示されたその名前に、心臓がドクドクと高鳴り始める。
今日はもう関わりたくない。
声も聴きたくない。
会いたくもない。
未定、と表示された発信元。
時計を見ればもうすぐ日付が変わるかという時刻。
寝ていた、という言い訳が通じる時間。
いや、あの人にはどんな正当な言い訳も通じないのかも知れないけど。
どうしようか迷った。
加藤とえっちな事をしたボスザルと、本当なら話もしたくない。
大魔王に話を聞いてもらって少しばかり立ち直ってはいるけど、それでも今日はもう勘弁して欲しかった。
携帯は鳴りやまない。
迷いに迷った挙句、俺は室外から聞こえる破廉恥極まりない声も忘れて、通話のボタンを押した。
「……はい」
『どこだ』
どこだって、こんな時間に出歩いてるような人間は不良くらいだと思いますが。
「い、家です」
『今日勝手に帰りやがって、今すぐ来い』
「………」
切れるかな、と思ったけど、今回は切れずに俺の返事を待っているようだった。
「あの、今日はもう…」
『お前、ペットのくせに俺に逆らうのか』
「………」
『台所も汚したまんまで、それくらい片付けに来い』
「……イヤです」
『あ?』
何か、霧消に腹が立って仕方なかった。
ボスザルの立場からすれば、別に俺には何も悪いと思うような事はしていない。
加藤とえっちな事してたって、俺に咎められる理由も責められる理由も何ひとつないんだ。
頭の中は14歳で、俺とのことなんて何にも覚えてないんだから後ろめたさなんて微塵も感じていないというか感じる必要もない。
だから今まさに、飼い主はペットに身に覚えのない事で牙を剥かれている状態なわけで。
このまま俺が噛みついてたら、どうなるのかなんて考えなくてもわかった。
「ごめんなさいすぐ行きます…」
小さな声でそういうと、電話はプツリと途切れた。
溜め息を吐いて携帯をベッドに放り投げる。
そして変わらずに俺の鼓膜に無遠慮に侵入するその声に顔を赤くしながら、俺は服に着替えるとそっと部屋から抜け出した。
あそこまで激しいんだから、俺がいなくなっても気付かないだろうな、なんて思いながらボスザル宅までゆっくり歩いた。
もう全力疾走する気力も体力もない。
夜道は物凄く怖かったけど、なんていうか、凄まじい疲労感でいっぱいだった俺はそんな事も大して気にならなかった。
流石にこの時間帯になると、住宅街でなくてもしんと静まり返っている。
少し離れた場所まで行けば若者で溢れかえっているんだろうけど、住宅が入り組むこの場所は比較的静かだった。
空地を通り過ぎて、川沿いに出る。
月の光を反射してキラキラとする水面を見ていれば、そこに人影を見つけて俺の足が一気に竦んだ。
こ、こんな時間にこんな場所で何をしているんだ。
不審者か?
数メートル先には確かに誰かがしゃがむようにして座っている。
眉をひそめながらその影をじっと見ていれば、突然その人影がこっちに首を捻った。
思わず踵を返して逃げ出しそうになるも、その顔を確認出来た俺の動きはそのままピタリと停止して。
何かを胸に抱えながら、俺の傍までゆっくり歩いてくるボスザルから目が離せなかった。
「人が呼びつけてんのに、ちんたら歩いて余裕だな」
「……すみません」
「まあいい、来い」
こんな場所で一体何をしていたんだろうか。
そしてその胸に抱えた子犬はどうしたんだろうか。
そう思って、疫病神が言っていた事を思い出す。
何でも拾ってくると。
それを実際目の当たりにして、自分の知らないボスザルを見れたような気がした俺は、素直に悦びを生み出していた。
歩き出した背中をじっと見つめながら、その後ろをとぼとぼ歩きだす。
「隣に来い」
「あ、はい」
並んで歩く事に遠慮していれば、そう呼ばれてその隣まで足を速める。
胸にはやっぱり子犬が抱えられていて、その可愛さにおもわず口元が緩んでしまった。
「お前そっくりだろ」
「………」
「コイツの目、見てみ」
言われて、丸い黒々とした大きな瞳に目をやる。
「すげぇ怯えてんのわかるか」
「…はい」
目というか、ぷるぷると小刻みに震えているその小さな体を見れば、それは一目瞭然だった。
「この目がな、慣れてくると真っ直ぐ俺を見るようになる。俺が自分に危害を加えないってわかると、怯える目から信頼の目に変わるんだ」
「…はぁ」
「俺が裏切らない限り、コイツも俺を裏切らない」
「………」
「お前の目、最初見た時コイツら思い出したよ」
それは、どういう意味なんだろうか。
だから俺が犬にしか見えなくなったと…?
よく分からずに黙っていれば、ふっと息を漏らして、ボスザルの手が俺の頭に乗せられた。
「人間のくせに、犬みてぇな目してるヤツ、初めて見たわ」
そう言って俺を見るボスザルの目は、やっぱり見覚えがあった。
そしてやっぱり、この人は俺に犬を重ねて見ていたと悟る。
何でボスザルが俺にあそこまで執着して、何であそこまで想ってくれたのか。
原点はきっと、その胸に抱えられたそのものにあるんじゃないかと。
何故だかそんな風に思って、やっぱり少し、複雑な気持ちになった。
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