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第16章ー3 おお、神よ!にしおりをはさみました!
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第16章ー3 おお、神よ!
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オペラは、全曲通すと、二時間の超大作だ。
それの譜面読み合わせというと。
一通りやっても二時間はかかるということだ。
「今日は何時まで練習予定なんですか?」
佐久間の問いに、有田は平然と答える。
「今日は21時まで押さえてあります」
「そんなに?」
「体育会系ばりですね」
田口の感想に、有田は笑う。
「音楽家はインドアみたいなイメージかもしれませんが、結構体力勝負なんですよ。マエストロですら、オフの日でも半日は筋トレやジョギングをして身体づくりをします。二時間ずっと同じ状態で指揮をしなければなりません。楽器演奏者も然りです。途中で、疲れたからと言って、ポジションが崩れれば、音も崩れますから。常に、いい状態で楽器を支えたり、演奏しなければなりません」
「長期戦ですね」
田口は、感嘆の声を上げる。
「田口さんは、スポーツ系ですか」
「田口は剣道をやっていたのです」
佐久間が答えると、有田は頷く。
「そんな感じがしますね。剣道も駆け引きがあるし。精神的に鍛えられそうですね」
「いや。今のお話を聞くと、音楽家の方ほどではありません」
三人は並んで、ステージの上を注視する。
そのうち、ステージ袖から人が出てくる。
「休憩にします」
女性の声に、圭一郎は指揮棒を置いた。
『20分休憩』
団員たちは、楽器を下ろして、ざわざわと休憩に入る。
圭一郎も伸びをすると、ステージから降りてきた。
「行きましょう」
有田に促されて、二人はステージ下まで歩いて行った。
「有田、お腹空いた」
「そんな事より」
「そんな事ではない!最優先事項だ!」
圭一郎はプリプリしている。
しかし、有田は相手にしない。
「マエストロ、梅沢市役所のお二人ですよ」
田口は何と挨拶をするのか考えていたが、関口圭一郎と言う男は優しい目をした初老の男だった。
短く刈ってある髪は白髪が混じっている。
銀縁の楕円の眼鏡。
痩せていているせいなのか、しゅっとスリムな顎は、彼の顔を小さく見せる。
「梅沢……」
圭一郎は二人を交互に見て、急に大きな声を出す。
「何と!」
「へ?」
「あ、あの」
「あの子はどうした?!楽しみにしていたのに!!おお!なんたる事だ!神は試練を与えるのか!!」
佐久間と田口は、ぽかん。
圭一郎は、顔を両手で覆って嘆く。
有田は苦笑いだ。
「マエストロ、保住係長さんは体調を崩されたようですよ」
「体調だと!?大丈夫なのか?」
今度は、いきなり佐久間の腕を掴んで振る。
「体調が悪いって……えっと、何だっけ?」
「佐久間です」
「そうだ、佐久間くん!」
困っている佐久間は、田口を見る。
「あの。係長は先日、転倒いたしまして。圧迫骨折です。申し訳ありません」
田口の説明に、今度は田口のところに駆け寄る。
「本番は間に合うのか?有田!次の練習は梅沢でやるぞ!」
「ご冗談を。無理です」
「なんたる事だ……!」
彼は、よほど保住と会うのを楽しみにしていたのか。
田口は内心面白くない。
「本番の頃には、復帰いたします」
「そうか、もう会えないのでは残念だが、もう少し先のお預けなら我慢しよう」
圭一郎は田口を見る。
長身で大柄な田口と、同じ高さの目線の人間は珍しい。
「君は?」
「保住の部下の田口です。保住の代わりで参りました。何なりとお申し付けください」
真っ直ぐに目を覗き込まれると恥ずかしいが、田口は臆する事なく応える。
「気に入った!」
彼はそう言うと、田口の肩を引き寄せてハグする。
「あの子の代わりではない!君は日本人らしくていい!気に入った!」
「あ、ありがとうございます……」
人に抱き寄せられるのは慣れていない。
隣にいた佐久間は「自分ではなくて良かった」と言う顔をしていた。
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