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本の返却期限だ。
滅亡の憂き目にあおうとも、こういった公共機関は細々と運営していた。
本を盗んで金にしたところで、どうせ使える場所なんてない。
それだけではなく、統治者のおかげで規律と良心が維持されているのが大きいのだろう。
身支度をしていると家の前に乗用車が一台停まった。
乗用車なんて珍しい!
地下シェルターの空調システムの処理能力では、一日に走れるのは限られた台数だけだ。
当然、持てるのは身分の高い者に限られる。
乗用車から身なりのいい男が出てきて、ティヘラスの使いの者だと名乗った。
乗用車に乗れる身分なら、恐らく進入禁止区域への通行を融通することなんて造作もないのだろう。
なんだか、とんでもない奴と知り合いになってしまったのではないか……。
「フィル! お待ちしていました」
「ありがと、乗用車なんて初めて乗ったよ……」
ティヘラスが出迎えてくれた。
今日はなんだかキリッとした「よそ行き」の顔だ。
部下たちを下がらせて、ティヘラスは僕の手に身分証ともう一枚のカードを握らせた。
「一週間も時間がもらえたので、一般利用者が入れない特別書庫の閲覧許可証もとったのです」
鼻息荒く得意げな顔で、物々しい閲覧許可証を見せてくる。
飛びついてハグしたいところだがティヘラスの望んでいるのはこうじゃない。
首に手を回しゆっくりと抱きしめて、耳元に囁いてやる。
「ありがとう、いい子だなティヘラス。後で礼はたっぷりする」
「はっ……はいぃ……」
部下の前での凛とした表情はどこへ行ったのか、目元も口元もとろけそうなほどゆるんでいる。
ティヘラスの邸宅からα-β地区の図書館に向かうと、前回のあの恐ろしい体験を思い出してぞわっと鳥肌が立った。
素早くティヘラスの陰に隠れる。
「どうされましたか?」
「前回、この地区を歩いていて怖い思いをしたんだ。なんだか知らないけど目つきのおかしい奴が大勢声をかけてきてさ」
「そうだったのですか? でも、先日お帰りの際は全く……」
「あれ、そういやそうだな? 急いでいたけど一応通行人はいたし」
「きっと俺がそばにいたせいでしょう。不届きな輩は俺が退けます」
「……目つきのおかしい奴の中にはおまえも含まれてるからな」
そんな軽口を叩きつつ歩いていると、α-β地区の図書館に着いた。
こののっぺりとした建物の中に本という財産が山とあるのだ。
それだけで、僕にとっては宝石よりも価値がある。
「まずはどの棚からお読みになりますか?」
「もちろん特別書庫! 年代記とか、この地下シェルターの成り立ちが詳しく書いてあるような本が読みたい」
「お手伝いします」
この日が来る前から決めていた。
あの時の疑問に決着をつける。
二人で手分けしてめぼしい本を探していく。
十八年も生きてきて僕はこのシェルターのことを何も知らない。
Ω地区の住人とα地区の住人は、何故か地区の移動を制限されている。
まるで、お互いが出会って交流するのが不都合だとでもいうように。
そもそもなぜ地区が分かれているのか。
なぜα地区の人間はΩ地区の人間に反応するのか。なぜ——
(なぜ僕は、僕の家族は、三ヶ月に一度、ああして苦しまなければいけないのか)
「運命だから」で片付けてはいけないことをたくさん見つけては、見ないふりをしてきた。
でも、もう僕は運命のレールを踏み外してしまったのだ。
そして、そこから見える新たな景色を知ってしまった。
知りたい。
どんな結末が待っていようと。
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