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*5
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タクシーは昨夜のバーの前で停まる。
時間にしてみればものの15分程度の距離だったが、無言の空間は耐えがたいものがあって
運ちゃんと仲良くなるという謎の事態。
支払いを済ませたその子は
俺が車を降りるのを待つことなく背中を向けて歩き出した。
「あ、おい!おろして来るから待てって!」
すると、まさか本当に俺がばっくれると思っていたのか
振り返るその子の目は丸く見開かれていて
初めて見た悪意の篭っていない瞳に
一瞬、思考が停止する。
「…本当に言ってたんですか?」
「だからそう言ったじゃん。」
「ふはっ。雅樹さん意外としっかりしてるんですね。」
その時、男の子は初めて
そう。
初めて俺に笑顔を見せた。
「いいですよ。金額いちいち覚えてませんし。」
「そういう訳には…。」
「なら……今夜22時にここで待ち合わせしましょうか。奢ってくださいよ、それでチャラにしてあげます。」
屈託のない笑みは、太陽みたいに眩しくて
真っ直ぐに見ていると自分の中の何かがおかしくなりそうで
ライトの消えた看板を眺める。
「…今度は世話かけないように気を付けるな。」
「それは当たり前です!あと…。」
男の子は、秋の風に明るい茶髪を揺らめかせ
くるっと踵を返して呟いた。
「あれんって…呼んでも良いですよ。」
「お、おー…。」
「僕だけ名前知ってるの、おかしいでしょう。」
小さな背中はそれだけ言うと、振り返ること無く
遠ざかる。
あ
れ
ん
その3文字が俺の脳内を巡り、暫くその場に立ち尽くしていた。
俺の一つ年上で、刺々しいが丁寧な言葉遣い。
1人で逃げてもよかったものを
結局最後まで世話を焼いてくれた、笑顔の眩しい不思議な子。
あの頃と似た感覚が押し寄せて
きゅっと微かに痛む胸。
どうせ何も動く強さもない癖に。
わかってんだろ、あの時だって友達止まりだ。
そもそも俺は“あれん”の事を何も知らないんだから
コレを肯定するには早すぎる。
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