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18歳以上ですか?
8にしおりをはさみました!
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8
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西山は、町からそう離れてねぇ場所にある、低い山だ。オレがミーハを拾った川の、上流にあるような山々とは違う。
けど、いくら危険度が低いったって、モンスターが出ねー訳じゃねぇ。
そんなとこで野宿なんてのは真っ平御免だから、とにかくさっさと出発し、話は歩きながら聞くことにした。
8年前まで、2人は貧しい村に住んでたんだそうだ。
貧しい村のビンボー長屋で、ミーハは母親と2人だけで暮らしてた。
父親はいなかったようだ、とハマーは言った。
「駆け落ちだって、村の大人が言ってた気もするんだけど。当時はオレも、『カケオチ』が何なのか分かんなくてさー」
確かに、当時はハマーだって子供だったから、詳しい事情を知ってるハズもねぇ。
ハマーが覚えてんのは、村のガキどもとつるんで、一緒によく遊んだ事。ガキの頃から古い杖と、古い呪文書を持ってた事。一人で魔法の練習をしてた事。
そしていつの間にか……ミーハもその母親も、いなくなってしまった事。ハマーが10歳、ミーハが8歳の時だったそうだ。
「遠い親戚んトコに行ったって、親に聞いた覚えがあるんだけどね~」
「親戚……」
オレは、ハマーの言葉を反芻した。
「……何か、思い出したこと、あるか?」
ミーハに訊いても、不安そうに眉を下げて、ゆっくりと首を振るだけだ。
まあ、8年も前のことじゃ仕方ねーか。8歳だもんな。
「そうか、でも気にすんな。今までどおり、地道にやろうぜ」
ギュっと細い肩を抱き寄せ、頭の先に口接ける。
ホントはちゃんと唇にキスしてぇとこだけど、依頼人の前で、さすがにそれはねーだろう。
ミーハも同じこと思ったみてーで、オレのシャツの裾を、一瞬だけつんっと引っ張った。
ふもと近くの小さな村で、ちょっと早い昼メシを食った。
「墓参りも兼ねてるからね~」
ハマーはそう言って、村で小さな花束を買った。
村に小さなスペルショップがあるのを見て、そういや昨日、結局呪文書を買わなかったな、と思い出す。
「ちょっと覗いて見るか?」
そう言うと、いつもならキラキラな目になって「うん!」とか言うくせに、ミーハは珍しくためらった。
新しい魔法を覚えて使うと、また過去を思い出すかも知んねぇ。それが怖いんかな?
「あっ、毒消しの薬草も買った方がいいなぁ」
ハマーが薬屋に行くのを見て、そうか毒蛇の巣だったな、と思い出す。
『解毒の呪文』もあるんだろうけど、「今のミーハ」は持ってねぇ。
「オレらも買いに行くか?」
ミーハの腕を取って、薬屋に向かおうとすると……ミーハは「買、ってみる」つって、スペルショップに入ってった。
小さな村の小さなスペルショップは、ハッキリ言ってさびれてた。
村には魔法使いもいねーらしくて、扱ってる呪文書もスゲー少ない。『解毒』があっただけラッキーかも知んねぇ。
ただ、1個だけ『氷山』っていうレアもあった。
デカい氷を作る呪文書らしーけど、残念ながら持ち金が足りねぇ。次の機会に、買いに来るしかねーか。
「そん時まで、誰にも買われねーことを祈ろうぜ」
オレの言葉に、ミーハは「う、ん」と曖昧にうなずいた。
『解毒』の呪文書を読み込んでる振りしてっけど、違う。別のコト考えてる。
ハマーと過ごした、子供時代の事でも考えてんのか?
それとも……過去の事か?
確かに、昨日聞いた失敗の話は、想像しただけで怖ぇ。
炎よりも早くモンスターが飛んで来て、悲鳴を上げて? それからどうなった?
今度『劫火』を使ったら、その先の事まで思い出しちまうかも知んねーもんな。
『解毒』だって、やっぱ思い出すのは、モンスター関連の記憶だろうし。
「『解毒』使うのイヤか? なら、やっぱ薬草を……」
買いに行くか、と言いかけたオレのセリフに重なるように、ミーハが言った。
「イヤじゃ、ない!」
強い口調。ぐっと杖を握り締め、キッパリとオレを見てる。
「オレ、もう、失敗しない。あ、アル君がついてる。ご、『劫火』も、怖く、ナイ」
『劫火』も怖くない、その一言がスゲー嬉しい。前向きで、格好良くて、愛おしくて、ゾクゾクする。
「ああ。オレがついてる」
オレ達はチームだ。
抱き締めてぇけど、見知らぬ村でそれもどうよと思ったので、頭をぽん、と撫でてやる。
するとミーハが、ふへっと笑った。
そのミーハの決意が、どうしても必要だと分かったのは、蛇塚の近くまで来てからだ。
蛇塚は、駆除しても駆除しても毒蛇のわく場所だって言われてる。
魔法でも作動してんのかも知んねーけど、原因は分かんねぇ。
目印として、遠目にもこの辺が「そう」だって分かるように、高く詰まれた石が黄色に塗られてる。
その蛇塚の黄色が、はっきりと見え始めた頃……毒蛇がちらちらと現れるようになった。
「またか!」
向かって来る蛇の上に、剣を刺して退治する。
結構動きが早くて、かなり厄介だ。
ハマーも剣を持ってるけど、「剣士」じゃなかったみてーだ。戦い方の前に、握り方もかなり怪しい。さっきから剣を振り回してっけど、1匹もやっつけられてねぇ。
何考えてんだ、こんな腕前で、よくココに来ようと思ったよな。いや、墓参りが目的だとは聞いたけど。
「うわ、うわぁ」
ハマーが悲鳴を上げた。
咬まれたか? けど、オレが駆けつけるより前に、ミーハが叫んだ。
「ポイズンフリー!」
ミーハが向けた杖の先、ハマーが緑の光に包まれる。『解毒』か? けどキリがねーぞ。
オレはハマーの周りの蛇を、剣を振り回して散らしながら言った。
「一気に行け、ミーハ!」
オレの声にうなずき、杖を構えて息を吸うミーハ。
ハマーに肩を貸して支え、ミーハの背後に素早く下がる。
信じてっけど心配で、細い背中をじっと見守る。そんなオレの目の前で、ミーハは大きな声で叫んだ。
「グランドファイヤー!」
ゴウッ!
昨日見たのと同様に、熱風とともに大量の炎が地面を駆けた。
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