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18歳以上ですか?
22にしおりをはさみました!
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22
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※モンスターですが、多少の流血描写があります。苦手な方はご注意ください。
白い光に包まれて、『転送』だ、と頭の片隅で理解した。
けどオレは、その瞬間にも大きなモンスターと対峙してて――それどころじゃなかった。
突然背景が変わってもパニックを起こさなかった、と、それくらいの意味しかねぇ。
何か考えられるような猶予もなかった。
「キャーッ!」
「うわーっ!」
モンスターに力負けして、地面にどうっと倒されながら、騒がしい悲鳴を耳が拾う。
「ハイランダーウルフだ!」
「デカいぞ!」
「なんでここに!?」
周りが騒がしく言うのも、気にしてらんねぇ。
モンスターに力負けして後ろ向きに倒れ込みながら、オレは全意識を新しい剣の剣先に込めた。
息を詰める。
モンスターの急所――喉笛が見える。
襲い来る牙を躱し、そこに剣を一突きしようと、体を捻りつつ右腕を出す。
白い牙も、黒い舌も、眼前に迫るのを左手で防いで、オレはモンスターの勢いを利用し剣を――。
しかし。
ドシュッ!
鈍い音と共に、目の前のモンスターから喉笛が消えた。
続いて、ビシャッと降ってくる血しぶき。
オレの脇に、ドン、と転がるモンスターの頭。ドウッと倒れる体。ウワァッと歓声が上がり、拍手と口笛が沸き起こる。
オレの右手には、手応えがないまま血しぶきを被った剣が握られてて……。
「えっ……?」
どういうことだ?
剣の先には、何もなかった。
「あっぶねーな、この町は! こんなのが突然現れんのか?」
聞き慣れねぇ男の声がしたと思うと、剣を握って突き出したままの右手首を、ぐいっと引っ張られて立たされた。
足元には、3m級のワイルダーウルフが倒れてる。
オレじゃなけりゃ、この男がやったのか? 一瞬で?
立たせてくれた男をちらっと見ると、そいつは左手で、黒光りする長剣をびゅんと振って血を払い、スッとスマートに鞘に収めた。
背の高ぇ男だ。
20歳前後か? まだ若い。黒髪で、黒い鎧をまとってる。
目の鋭い整った顔立ち。自信たっぷりな笑み。長剣をらくらく腰に差せる長い脚で……。
「おい、ケガねーか?」
顔を覗き込まれてドキッとしたのは、何かの予感だったんだろうか?
「……はい、すんません」
オレはためらいながらも礼を言って、それから深く息を吐いた。
落ち着いてみてみると、オレとミーハの住む家の前だ。
ただ、玄関には扉の代わりに、屋根より高い黒い岩がそびえ立っている。
何だこれ、と一瞬思ったけど、そういやミーハが言ってたな。黒い――テーブルの石がどうだとか。
ぼんやりとその石を眺めてると、横から「スッゲーな」と声がした。
「これ、黒曜石じゃん? それを家の扉にするとか、お前スゲーセンスだな!」
それは誉めてんのか、バカにしてんのか? つーか、どう見ても岩に塞がれてるだけだろうに、まんま扉と誤認するとか……バカか?
はっはっは、と豪快に笑う黒い鎧の青年は、その広い肩に、頭部を失くしたワイルダーウルフを担いでた。
パッと見て、ギョッとする。
マジか!?
そりゃ、3m級なら小柄な方なんだろうけど……剣を帯びて、全身に鎧着て、その上モンスター担ぐって。どんだけパワーが有り余ってんだ?
「この獲物、オレが倒したんだし、貰っていーよな?」
律儀に訊いてくる青年に「ああ」とうなずくと、彼は「サンキュー」とオレの背中を乱暴にド突いて、悠々と路地を去ってった。
よろめいて、黒曜石らしい岩に片手を突く。
全体重をかけてもたれた訳じゃなかったけど、岩はぐらっともしなかった。
ミーハとタオが、馬に乗って大急ぎで帰って来たのは、ちょっと時間が経った後だった。
まあ、高地からじゃそれなりに時間、かかるよな。
「アル君! アル君っ!」
ハマー(馬)から飛び降りたミーハは、その勢いのままオレに飛び縋って来た。
よっぽど心配したんか、べしょべしょに泣きまくってる。
涙まみれで赤く腫れてて、ブサイクになってっけどスゲー可愛い。
「心配してくれたんか? あんがとな」
囁いてぎゅっと抱きしめてやると、ミーハも更に力を込めて、オレにギュウギュウに抱き付いた。
一方のタオは、地面に残ってる血の跡を見て、「何があった?」って強張った顔をした。
やっぱ、場数踏んでるだけはあるな。
「お前、無傷だよな?」
って。いつものバカな表情を引っ込めて、真剣な声で訊いてくる様子は、さすが天才剣士って貫禄だ。
「ああ、訳分かんねーまま加勢が入った。横から、モンスターの首を一振りではねたヤツがいたんだよ」
「首をか。確かに、そんな感じの血の量だ」
タオは真剣な顔のまま、周りをぐるっと見回した。
ワイルダーウルフの首は、いつの間にか誰かが持ってっちまってて、とうにねぇ。
後に残されたんは大量の血しぶきだけだったけど、臭いし、野犬とか呼び寄せても怖ぇってんで、近所の人らが水を撒いてくれた。
それでもやっぱ、地面に血のシミは残るんだな。
オレは今まで、なるべく急所を一突きにして、モンスターに傷をつけねーでいたから、首をはねた時どうなるかなんて、あんまよく知らなかった。
「どんなヤツだった? 長剣使いか? 見覚えは?」
タオに訊かれて、「あー……」と、あの男の姿を思い出す。
「長剣だった。いや、見覚えはねぇな。よそ者っぽかったし、そんな感じのコト言ってた。背ぇ高くて黒髪で、黒い鎧着て。……剣もなんか黒かった」
「黒い鎧の、長剣使いか……」
ぼそりとそう呟いた後、タオは「ふーん」とアゴに手を当て、考え込んだ。
けど、それも一瞬で。
いつもの明るい顔を取り戻したタオは、「スゲーヤツだな!」つって、ニカッと笑った。
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