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次のオアシスへ行くのも、半日くらいはかかるらしい。
地図的にはそれ程距離があるようには見えねーけど、やっぱモンスターが時々出るし。街道と違って、馬の速度もどうしても遅い。この辺の不便は、諦めるしかねぇようだった。
砂の上を歩くのに特化した馬もいるらしーけど、こんなとこで交換したら大変だし、ハマー(馬)を売り払う気にもなれねぇ。
ハマー(人間)やタオも、それなりに自分の愛馬には愛着があるみてーで、多少不便でも、このままオアシス巡りを続けようってことになった。
オアシスには宿屋みてーなのはなかったけど、地面がしっかり踏み固められててサソリも出ねぇし、野宿に困ることはなかった。
木陰も水もあるし、メシも食える。
ここでもサボテンステーキとサソリフライ推しなのには閉口したけど、街の例の店で食ったのより美味いくらいで、文句はなかった。
オアシス名物のデカくて甘い瓜も食った。
ミーハが見たら喜びそうだなと思うと、どうしてもちくっと胸が痛む。
感傷をやり過ごしながら「街じゃ見なかったな」って話を振ると、どうやらちょっとの衝撃で割れたり痛んだりしちまって、運搬には適さねぇらしい。
「『転送』魔法でも使えりゃいいんだけど、魔法使いを雇うには割に合わなくてねぇ」
住民の誰かが諦めたように語ってたけど、オレらの誰も同じく「転送」は使えねーし。ミーハがいない今、気軽に魔法使いに頼めるようなツテもねぇ。
「成程な」
そんな風に、軽く流して話を合わせるくらいしかできなかった。
「一応、『転送』の呪文書は買ってみたんだけどねぇ」
残念そうに言う住民に、いつかのハマー(人間)みてーだな、と苦笑する。
「そう簡単に覚えられたら苦労しねーよな。オレも覚えてぇー」
タオが明るい声で悔しがり、その場にいた連中がドッと笑う。どこでも同じ話で盛り上がるなと思いつつ、そのやり取りもやっぱ、ミーハのことをどうしても連想させて、上手に笑えた気がしなかった。
ミーハは今、何やってんだろう? 相変わらずウッディコングの巣の調査でもしてんのかな?
それともまた魔法使いの集団に囲まれ、スパルタで魔法の特訓か?
オアシスにはさすがに、賞金稼ぎ用の掲示板もねぇ。
サソリとかデザートラビットとか、狩りやすい小型種なんかは常時買い取りしてくれるらしーけど、どこにでもいるしいつでも出るから、大した稼ぎにはならねぇようだ。
「ワームやライオンも、持ってるなら買い取るよ」
住民らに愛想よく言われたけど、ぼったくられる気配しかしねぇ。
革を使えるライオンはともかく、デザートワームなんかどうすんだと思ったけど、いいタンパク源になるんだってほのめかされて、それ以上は聞かなかった。
確かにサボテンやサソリの他、串肉とか肉団子スープみてーなのも食ったけど……まさかアレじゃねーよな? ラビットだよな?
ミミズに似てるとはいえヘビよりはデカいし、肉質も結構軟らかくて倒しやすいザコだったけど、できればこの先、あんま出くわしたくねぇなと思った。
けどイヤだと思うと、やっぱ出くわしちまうモンなんだな。
1つ目のオアシスを昼に出て、2つ目を目指して進む途中、しつこいくらいワームばっかに襲われた。
肉質が軟らかい、つまり剣がすんなり通って1匹1匹倒すのは簡単なザコだけど、うようよと出られると、視覚的にも凶悪だ。
ミーハがいりゃパニックになって、また「劫火」とかやらかしちまいそう。
「うわー、くそ、燃やしてぇーっ」
タオが叫びながら、軽やかに双剣を振り回し巨大なワームを切り刻む。冗談とは思えねぇ口調で、笑ってる場合じゃねーけどちょっとおかしい。
ミーハのことをひとまず頭から追い出して、オレも負けじと剣を振るう。
デザートワームの討伐は、そんな難しいこともねぇ。砂から湧き出ては来るけど、出る前に一旦ぼこっと穴ができるから、サソリ程には神出鬼没でもねーし。十分倒せる。
馬がいななきながら踏みつぶしたのもかなりの数で、もう当分、ワームは見たくねぇなと思った。
ひたすらウッディコングばっか相手にしてた時は、ステップアップが実感できたし、苦じゃなかったんだけど……そん時以上にげんなりしちまうのは、やっぱ視覚効果のせいなんだろうか?
「また出たぞ!」
タオの警告に、剣を抜いてハマー(馬)の背中の上に立ち上がる。
あちこちでぼこぼこと開く穴。直後、そこから飛び出してくるワーム。剣を振るい、次々斬り払い、ひたすら倒してくけど達成感がイマイチねぇ。
ある程度倒してから、馬を駆け足で進めてオアシスを目指す。
「次はデザートシャークがいーな」
タオのぼやきに、「冗談じゃないよ~」って嘆くハマー(人間)。
「何も出ないのが1番だろ?」
って。確かにこれに関しては、ハマー(人間)の方が正論だなと思った。
2つ目のオアシスにも、日が暮れてからの到着になった。
1つ目の時と同様、行商だって知れた途端、わっと住民に取り囲まれる。
「ブドウ酒にハチミツ、さっき獲ったばかりのデザートワームもあるよ~」
ハマー(人間)の口上に、タオと顔を見合わせ、苦笑したのは勿論のことだ。
オレらがげんなりしながら倒しまくったデザートワームを、いつの間にかちゃっかり大量に回収してたらしい。
「おおー、こんなに!」
「そりゃあ当然でしょー」
喜ぶ住民たちに、なんでかハマー(人間)が得意げに胸を張った。
「なんたって『赤い閃光』、『蒼風剣士』っつったら、今王都でも5本の指に入るくらい有名だからねー!」
ハマー(人間)の2つ名の暴露に、住民たちが「おおー」とどよめく。確かに「赤い閃光」は有名かも知れねーけど、オレの名なんか王都でだってそう知られてるとは思えねぇ。
けど、知名度っつーのはこんな風にして、上がってくモンかも知んねーよな。
「やあ、どーもどーも!」
笑顔で手を振るタオを見て、コイツ大物だな、と今更ながら感心した。
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