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91にしおりをはさみました!
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濡れた岩場を延々と登ると、かなり開けた場所に出た。
あちこちに茶褐色や緑褐色のゴツゴツした岩があり、その合間に細い木々が生えてた。
木がデカくなんねーのは、下が岩盤だからなんかな? どっかからちょろちょろと水が流れて来てて、足元の岩盤を濡らしてる。
「うわっ」
誰かの悲鳴が聞こえて振り向くと、濡れた岩盤で顔見知りの剣士が尻もちをついてた。
けど、それを笑うヤツは1人もいねぇ。それより、ビンビンとドラゴンの気配を感じて緊張してる。
「足元気ィつけろよ」
「ああ、滑るな」
言葉を交わしつつ、みんな油断なく周りを見回す。
白っぽい岩だらけだったトコとは違い、同じ山ん中だっつーのにここは茶色い岩だらけだ。もう、どこにロックゴラゴンが潜んでてもおかしくねぇ。
隣かも知んねぇ。足元かも知んねぇ。
ただ存在感だけはビンビン感じてて、ゆっくり歩きながら生唾を呑み込む。
「ここにいるな」
「ああ……」
他の剣士もそう思ったみてーだ。あちこちにバラけてた連中も、1組2組とこの岩場に集まって来る。
一体どの岩がニセモノだ?
息を詰めながら視線を巡らせたとき――。
ザンッ。音なき音を立てて、風圧と共に白いローブを着込んだヤツらが、岩場の上に現われた。
偵察だけのつもりなのか、剣士たちの姿はねぇ。けど、そんなのは最初から当てにしてねーし、どうでもよかった。
「ミーハ!」
ドキッと胸が弾むのを感じながら、魔法使いたちに声を掛ける。白いローブの連中は揃ってオレの方を見て、警戒するように杖を構えた。
唯一杖を構えてねーのは、小柄な魔法使いが1人だ。言われなくても、それがミーハだってすぐに分かった。
「アル、君」
少し高めの懐かしい声が、オレの耳に響く。
オレを慕ってんのが、声の調子で分かって嬉しい。こっちに向かって駆け出そうとして、ずるっと滑って転んでんのが可愛い。
「気ィつけろ、濡れてんぞ」
苦笑しながら駆け寄り、手を差し出してやると、ミーハは「う、ん」と返事して、照れ臭そうににへっと笑った。
そんな状況じゃねーっつーのに、可愛くて愛おしい。
ドラゴンの存在感を忘れた訳じゃねーけど、ロックドラゴンより今はミーハの顔が見れて嬉しい。
オレの手に、そっと重ねられた白い手をぎゅっと握って、引っ張り起こす。
「あり、が、とう」
「前もこの辺で落ちたんだろ? もう落ちんなよ?」
たどたどしく礼を言うミーハに苦笑しながら注意すると、ミーハはなんでかきょとんとデカい目を見開いた。
「お、落ち……?」
首をかしげる様子に、あれ、と思う。
「落ちたの覚えてるよな? ルナと一緒だったんだろ?」
そう言いながら、すぐ向こうで周りを見回してるルナをアゴで指す。ミーハは不安そうにローブの胸元をぎゅっと握って、「こ、こ……」って遠い目で呟いた。
落ちたことも忘れちまったんだろうか? それは、オレとの記憶に繋がるからか?
ふいに胸がぎゅっと苦しくなり、たまらずミーハを抱き締める。そしたら、魔法使いの1人が突然「無礼な!」って声を荒げた。
目を向けると、オレの方に杖を構えててギョッとする。
とっさにミーハを背に庇うと、「どけ!」って更に鋭く言われた。
「ジュニア様から離れろ!」
「剣士風情が、ジュニア様に馴れ馴れしく近付くな!」
口々にオレに向けられる非難。
周りにいた剣士風情たちが、「はあ?」って顔をしかめてる。
「おい、遊びに来てんじゃねーぞ! この雰囲気が分かんねーのか!? どっかにドラゴンいるんだぜ!!」
ルナが周りの岩場を差したけど、魔法使いたちは聞く耳を持たねーみてーだ。
「やかましい! ウォーターボール!」
1人が怒声と共に、オレに向かって「水球」を放つ。
とっさにひょいっと横に転がり、それを避けると、「水球」はオレらの後ろにあった岩場に当たって、バシッと鋭いしぶきを散らした。
「てめぇ……」
言いかけた文句を途中で止めたのは、いきなり空気が変わったからだ。ひゅっと息を呑み、ミーハを庇うようにして岩場の方に向き直る。
直後、ズン……、と空気を震わせて、デカい岩にしか見えなかったモノが、ゆらりと動いた。
「ミーハ、下がってろ!」
叫ぶと同時に剣を抜き、ジャンプしてソレに斬りかかる。
ルナもタオも他の剣士も、一斉に駆け寄ってそれぞれの剣を突き立てた。
グオォォォ。
地響きするような鳴き声を上げ、デカい岩場が起き上がる。さっきまで岩にしか見えなかったウロコが、とんでもねぇ存在感を持って揺れ動く。
威圧を間近で放たれ、不覚にも足が止まった。
ドラゴンが後ろ足でわずかに立ち上がり、巨大な前足を岩盤の上に打ち付ける。ズン、と地面がシャレになんねーくらい震えて、岩盤にヒビが走った。
「うわあっ」
「ぎゃあっ」
何人かが足を滑らせ、濡れた岩場の上で転んでる。
ミーハも転んでた。けど、今は助けに行ける余裕もねぇ。それより、ドラゴンの注意を引く方が先だ。
「くらえっ」
再び高くジャンプして、ドラゴンのゴツゴツの背中に取りつく。
強化された剣は、やっぱ前とは切れ味が違うみてーだ。気合を込めてウロコの隙間に突き立てると、前よりは手ごたえを得て、ぐさりと剣が突き刺さる。
ギャアアアア。
ドラゴンがブルッと身震いして、剣士たちが次々振り落とされる。オレも勿論、あっけなく落ちた。けど、すかさず駆け寄って太く短い足をめがけて斬り付ける。
「ウォーターランス!」
魔法使いたちが呪文を唱え、「水槍」を次々に飛ばして来る。
「くらえええっ」
ルナが大剣を振り上げ、ドラゴンの首元に斬り付ける。
悲鳴を上げて、身をよじるロックドラゴン。
再び後ろ足で立ち上がろうとしたけど、その後ろ足をタオが双剣で斬りつけてる。
オレも一緒になって、反対側の後ろ足を攻撃した。
「ミーハ! 腹を狙え!」
剣を振るいながら指示を飛ばすと、「ロックソード!」って声が聞こえて、ドラゴンの下から岩の棘がズンズンと生えた。
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