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記憶と一緒に、ミーハが魔法の殆どを忘れちまってんだと説明すると、ルナは「マジか!?」ってビックリしてた。
「じゃあ、今どうしてんだよ? 覚え直しか?」
「覚え直し……っつーか」
それも間違っちゃいねーけど、多分違う、よな。呪文書読めば、すぐに使えるようになるんだし。
「むしろ、1個1個思い出してる感じ?」
オレはルナからミーハに視線を移した。自分のコトだけど、ミーハもうまく説明できねーみてーで、戸惑って首をかしげてる。
呪文書を見れば魔法を思い出し、それを使えばそれにまつわる記憶も少し思い出す――って、どう説明すりゃいーんだろう?
タオはっつーと、頭の後ろで手を組んで、イスにもたれて聞いてるだけだ。何の役にも立ちゃしねぇ。
「どーでもいーじゃん、難しいことはさ。実際に見てみねーと多分、説明は難しーぜ」
って。そりゃ確かに正論だけどな。
「どーもピンと来ねーなぁ」
ルナは顔をしかめてうなってたけど、取り敢えずタオに同意見らしい。
「考えても分かんねーし、まあいいや」
って。まんまタオと一緒のこと言ってて笑える。
天才って呼ばれるヤツらは、みんなどこか似てんだろうか?
けど、ルナの次の質問には笑えなかった。
「で、チビ、今何個くらい魔法使えんの?」
「何個……って」
ミーハと顔を見合わせる。
最近、呪文書を買ったり貰ったりが多かったけど――。
「25前後かな?」
多分30はいってねーと思う。そう言うと、ミーハも「そ、そんくらい、だね」ってうなずいた。
「30だってぇ!?」
ルナは大声でそう言って、「マジか……」と、大きなため息と共に目を閉じた。
思ったより少なかったらしい。
「だってチビはよ、こんなチビッこいのに、シーン家にあった呪文書の殆ど全部を覚えてたんだぜ? 400以上の魔法が使えたってのに」
「400!?」
今度はこっちが驚く番だった。
400以上――途方もねぇ数に、ぞっとする。そんだけ買い揃えんのに、オレの稼ぎでどんだけかかる?
いや、それよりも。たかだか30未満の記憶でうろたえてんのに、この先、オレはホントに何があっても、ミーハを支えて行けんのか?
オレの動揺をよそに、ルナはミーハに「ワリーな」と謝った。
「おめーがこうなっちまったのも、崖から落ちたせいだもんな。オレがついてたっつのに、ホント情けねーぜ」
そう言いながら、ミーハの柔らかな髪を、大きな手でわしゃわしゃと撫でる。ミーハもちょっとは慣れたんか、もう嫌がってなくて……胸の奥がモヤッとした。
「落ちた時のコトも、覚えてねーか?」
「な、ない、です」
ミーハが首を振ったので、ルナはようやく頭を撫でんのをやめて、真面目な顔で話し始めた。およそ、4ヶ月前の事を。
その前の晩から、2人は山にいたらしい。川の上流にある、高い山だ。火を吹いて山火事を起こし、その焼け野原に巣を作ろうとしてたっつー、レッドドラゴンの討伐の為に。
「レッドドラゴン!?」
それは小型のドラゴンだ。でも、小型っつったって、勿論オレの手に負えるモンスターじゃねぇ。っつーか、普通、こんな人の住む近くには現れねぇ。
「まあ、依頼は『討伐』だったけど、とにかく、山から追い払えっつー感じだったな」
ルナが思い出すように言った。
多分、赤枠――懸賞討伐だったんだろう。それも、かなり高額の。
こんな思い出話にも、力量の差を思い知らされて、愕然とする。
「で、現場に辿り着いた時にゃ、もう一面の焼け野原でよ」
ルナの言葉に、ミーハがハッと顔を上げた。
「や、焼け、野原……っ」
ドキッとした。
一面の焼け野原――。そんな夢を見たっつってミーハが飛び起きたのは、あれはいつだっけ?
『サンダーレイン!』
そう叫んで、ベッドから飛び起きたのは……?
「チビは先に火を消そうっつったんだけど、ちんたらして上に飛ばれちゃヤベェからさー。オリャー剣構えて、そのまま突っ込んでったんだ。そしたら……」
ガタン!
いきなり音を立てて、ミーハがイスから立ち上がった。店のテーブルが大きく揺れて、コップに入った水がこぼれる。
「ミー……」
恋人の名前を呼ぼうとして、オレは一瞬、口ごもった。
ミーハは目も口も大きく開けて、ゆっくりと両手で頭を抱えた。そして、ぶんっと大きく首を振り、目を閉じて眉根を寄せた。
「ミーハ!?」
ぐらりと倒れ込んだミーハの体を、咄嗟に抱き留めたのはオレだった。
けど、気を失う寸前、ミーハが微かに口にしたのは――。
「……ナさん」
――オレの名前じゃなかった。
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