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ピンキードラゴンの討伐報酬は、金貨800枚だった。それをあん時のメンバーで山分けにするっつって、オレとタオはそれぞれ金貨100枚ずつを貰った。
もう1頭のピンキードラゴンの方は、生きたまま捕獲してっから、もうちょっと報酬が高ぇらしい。そっちの方は、元々のメンバーで山分けにするみてーだ。
まあ確かに、オレもタオも、何もしてねーかんな。
ピンキードラゴンにとどめを刺したオレは、追加の報酬として直径2cmくらいの薄青い竜玉も貰うことになった。
竜玉っつーのは、1頭の竜から1個しか採れねぇっつーレア素材だ。それからタオと共に、ドラゴンの翼膜とかウロコとかか、牙や爪、背骨なんかも渡された。
首都の賞金稼ぎの仲介屋は、思ったより公平だったみてーだ。
いや、ルナが……っつった方がいーのかな?
薄青の竜玉は、オレの剣にハマってるようなサファイアと相性がいいらしい。そこで、武器屋の店主に勧められ、剣の柄にサファイアと並んでハメ込んで貰うことになった。
貰ったウロコも何枚か使って、剣にコーティングも施して貰う。
タオも同様に、愛用の双剣を強化させてるみてーだった。風の加護がかかるって。
「兄さんらは、アーマーは作らねぇのかい? ドラゴンの翼膜があるなら、軽くて丈夫なヤツが作れるぜ」
店主の誘いに、一瞬ちりっと胸が焦げた。
アーマーには、あんまいい思い出がねぇ。タオに買って貰って、初めて着けた簡素なレザーアーマー。それを着けててなお、重傷を負った――あの日のことが、忘れらんねぇ。
けど――。
「そーだな」
オレはうなずいて、店主に残りの素材も全部預けた。
オレがアーマーを注文したこと、単純にタオも喜んでくれた。
「お前、アーマー作んの? だったらオレの分の素材、残り全部やってもいーぜ」
ニカッと笑いながら、どさどさと持ってた素材を武器屋のカウンターの上に並べる。
「そっちの兄さんは、小さいのに太っ腹だねぇ」
店主に陽気に笑われて、「当たり前だろ」とタオも笑う。
「自前の剣だって、見事なモンだぜ」
って。いきなりの下ネタにおいおいと思ったけど、店主はイヤな顔1つしねーで、オレからの注文を受けてくれた。
剣の強化が出来上がんのが、明日。
アーマーの仕上がりは、オーダーメイドだから2~3週間かかるって言われた。
預けた剣の代わりにっつって、似たような片手両刃剣を貸して貰う。タオも同じく、双剣を2本とも預けてた。
「2~3週間か……」
武器屋を出てから、ぽつりと呟く。
2~3週間。その間は、誰が何と言おうと王都に堂々と居座れる。幸い、資金はたっぷり貰えたし、宿代もメシ代も問題はなかった。
問題は、ミーハだ。
『お前らのこと、チビは何も覚えてねぇ。だから諦めて、田舎に帰れ』
ルナにはああ言われたけど、ヤツの言葉1つで、納得なんかできる訳なかった。
デザートライオンの討伐の時、大怪我したオレを必死に治癒してくれた後、ミーハは気絶しちまったらしい。
その辺のことはタオからも聞いてたけど、ミーハが気絶してる間にアイツのじーさんが来て、そっからはろくに顔も見れなかったそうだ。
目を覚ましたミーハは、もう「元のミーハ」に戻ってたって。
失くした記憶を全部取り戻して、代わりに、記憶を失くしてた間のこと、全部忘れちまったんだって。
それはオレが、ずっと恐れてたことだった。
アイツがハマーと出会い、ルナと出会って、誘導されるまま過去を思い出すたびに、オレのことを忘れんじゃねーかって、怖かった。
アイツがオレを見て、「アル君」って名前を呼んで笑ってくれるたび、どんだけホッとしたか――思い出すだけで、胸が痛ぇ。
いつかこんな日が来るんじゃねーかって、予感してた。恐れてた。
けど、だからって、覚悟してたかっつーとそうじゃねぇ。それに、ルナがウソ言ってる可能性もある。
ミーハのこと、「チビ」って呼んで可愛がってそうだったルナ。アイツを優秀な魔法使いだって認めてて、また一緒に組みたいって思ってたハズだ。
そんなルナが、邪魔なオレたちを排除するべく、デタラメ言ったっておかしくはねぇだろう。
ホントにオレらのこと忘れてんのか。オレらの顔見ても、何も思い出さねーのか。自分の目で確かめるまでは、この街から出らんねぇ。
オレらの「家」にだって、このままひとりじゃ帰りたくなかった。
「ミーハに会うには、どうすりゃいーんかな?」
誰にともなく呟くと、横にいたタオが、「そーだなぁ」と唸った。
「無難なのは、やっぱ、誰かに紹介状書いて貰って、面会求めるとかだよなぁ」
「誰かにって、誰に?」
ぼそりと訊くと、タオは無言で肩を竦めた。
紹介状っつって思い浮かぶのは、「黒い疾風」のルナだろう。けど、アイツはこの件に関して、オレらの味方にはなんねぇ。
王都に他に知り合いもねぇから、紹介状がどうこうって案は、ここで見事に息詰まる。
他の方法でいくしかねーけど、いい案なんて何も思い浮かばねぇ。
ため息をつくしかなかった。
考えてるうちに、王都の中央広場まで来た。
うちの町にも、剣術の稽古に使える広場があるけど、王都のここはとんでもなく広い。
朝に来ても夕方に来ても、いつも複数の剣士がいて、それぞれ素振りしたり、打ち合いの稽古してたりする。
「まあ、あんま考え過ぎねーで、パァッと発散しよーぜ」
タオがそう言って、借りてきたばっかの双剣を引き抜いた。
「……そーだな」
自分でも借りた剣を引き抜きながら、胸の痛みに顔をしかめる。
オレらの稽古を横で見て、にこにこしてたミーハは今はいねぇ。
ぶんっと頭を振り、感傷を引き剥がして、剣を握る手に力を込める。心臓を強く意識すると、そこにゆっくり熱が集まってくのがちょっと分かった。
―――――――
短期集中連載にお付き合いくださってありがとうございました。この続き、王都滞在編は、そうお待たせせずに書きたいと思います。
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