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待てども待てども、忍はやってこない。
歩は、ため息を噛み殺した。
「なぁ、新里。今日は諦めよう?」
「・・・加藤。」
俺は加藤に向き直った。
「今日はありがとう。心強かったよ。」
「いや、・・・なあ、新里。」
加藤の目が潤んでいた。
「なんだ?」
「その、忍ちゃんてさ、」
言いかけた加藤は、言葉を飲み込んだ。
目を丸くして、俺の後ろを見つめたからだ。
「・・・山田さん?」
「あら、・・・加藤さんね!」
加藤から声を掛けられたジョギング中の男性が(いや、おっぱいがある)汗を拭きながら近付いてきた。
「お久しぶりです。りんりんは元気にしてますか?」
「ええ、おかげさまで。リモートでしか皆と会えないって寂しがってますけど。」
見るからに、二丁目界隈の人だ。
意外な知り合いにビックリした。
「ですよね、俺も出社は決められた日だけなので、なかなか皆とは会えないんです。」
「このコロナ禍ですもの。落ち着いたら、また富山のときのような旅行をしましょうね。石田さんはお元気?」
「はい、おかげ様で。・・・あ、こっちにいるのは友人の新里です。」
急に紹介されて、俺は慌てて背筋を伸ばした。
「初めまして、新里と申します。」
「初めまして、二丁目でchizoooo(チズー)というゲイバーをしている山田と申します。ぜひ、コロナがおさまったらいらしてね。」
「ぜひ。」
笑顔で頷くと、山田さんはマスク越しでもわかる優しい笑顔を見せてくれた。
「あの、今日はお店は?」
「・・・この状況でしょう?しばらく閉めてるの。」
コロナ禍で、二丁目から人が消えた。
感染した場合、どの店に行ったのか誰と一緒にいたのかが調べられる。
センシティブな情報が、否が応でも公表されてしまう恐れがあった。
ゲイやバイ、レズなど表立ってカミングアウトしている人は少ない。
もし、感染したらバレてしまう。
その恐怖からか、二丁目は閑散としていた。
「うちはお酒を出すお店だし、落ち着かないと無理ね。」
そっか。
そういう影響があるのか・・・。
歩は改めて、自分の知らない世界があることを感じた。
「お友だちもお店を畳んだところもあって。」
山田さんの言葉にハッとした。
「山田さん!」
「え?」
心臓が痛い。
苦しくて、潰れそうだ。
「ふ、不動産屋とお知り合いではないですか?!」
「ええ、知り合いは多いけれど。」
山田さんのツテを頼ることにした。
「お願いがあります!」
俺は初めて会った山田さんに深々と頭を下げた。
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