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ディスクを見て、あの時の判断が本当に正しかったのかと自分を責めた。
翌日、朝クリーニング屋にスーツを出してからいつも通り会社へと向かった。
高そうなスーツだ、捨てると本人が言ったとはいえ俺の手で捨てることはできない。
また会ったらきちんと謝罪をして返そう。
頭の中で何度もシミュレーションを繰り返しながら出社した矢先だった。
「……誰が…。」
ようやく出てきたのはそんな弱弱しい言葉だった。
入社してからわずか1年とはいえほぼ毎日座っていたディスクは翌日の今日にはもう、物置になっていた。
コピー用紙や備品の下にひかれたノートパソコンは意図的に誰かがつけた大きな傷がついていた。
「なんで出社してんの?」
後から聞こえた声にようやく振り向く。
同じ部署内、同期でも俺との成績には天と地ほどの差がある。
俺は小さく
「…まだ、正式な退職じゃない。」
とだけ言い返したが、その男は案件ファイル片手に馬鹿にしたように笑っただけだった。
仕方なく片付けでもしようと椅子を引くと事務員の女が一言正面を向いたまま言った。
「なんで皆の備品置きを占領して座ろうとできるの?邪魔なんだけど。」
心が折れそうになる。
俺は聞こえないような声で「すみません」とだけ呟いて、ノートパソコンだけを引き抜いて逃げるように事務所を出た。
こんな時になければまだ可愛げがあるのに出てくるのは胃液ばかりだ。
別にそんなに胃が弱いわけではなかったのに。
…なんて的外れなことを考えていた。
俯いたまま速足で廊下を進む。
誰かに頼りたい。
本当は誰かに縋り付いて助けてほしい。
そんな相手俺の人生にはずっと居なかった。
幼い頃、自殺していなくなった母親に聞きたい。
何がそんなにつらくて死にましたか。
今の俺よりもずっと辛かったですか。
どうして俺も一緒に殺してくれなかったんですか。
「煙草嫌いなくせになんで喫煙室通うの?」
誰か一人を愛するために、人生を生きるのだという奴がいる。
つまり誰かに愛されるために人生を生きるのかもしれない。
「……嫌いです。」
「つれないな。」
「嫌いです、もう…俺も、俺の周りも全部……っ…!」
綺麗ごとも、嘘も、誰かを落とし込むことも。
全部嫌いなんだよ。
「可哀想に。おいで、幸君。」
白い煙の中に呼ばれる。
あの日、母親を包んだ煙と今、俺に向かう煙はきっと違うものなのに。
どうか殺してくれと祈りながら包まれる。
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