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金銭の代わりににしおりをはさみました!
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金銭の代わりに
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「随分早食いだね。まるで早く切り上げたいみたいに。」
男は形の良い口角を上げた。
「そ、そんなことないです。いつも通りですよ。」
じわりと額に汗がにじむ。
「そう…。」
男はずずっと蕎麦を啜った。
(まだ食べ終わんないかな…)
「そんなに見つめられると緊張するななぁ〜。」
(はっ!)
幸希は机についていた肘を退けて、背中を丸めた。
男はふっと笑って、「なに?」といって箸を置いた。
「食べ終わりましたか?」
おずおずと幸希は上目遣いで男を見た。
男はキョトンとした顔をした。
「それを待ってたの?」
「まぁ一応…。食べてる途中で込み入った話をするのは失礼かなと思いまして…。」
「若いのに真面目だね。で話って。」
(イラッ!なんじゃ若造!年齢知って驚くなよ!ってか教えないけどな!)
「顔が強張ってるよ。」
幸希はハッとして、頬を引っ張った。
「そんなことないです。話ってのはですね、あのこのお支払い(慰謝料っていうのかな?)のお金を後日、現金書留で送る形でもよいですかね?」
ようやく思いついた幸希のグッドアイディアだった。
「駄目。知らない人に住所は教えられない。」
(た、確かに…)
「じゃあコンビニに持って行きます。」
「俺がシフトに入ってない時に来る気だろう。」
ギクリという心の音が聞こえそうだった。
(鋭い…)
「では…どちらにお持ちしたらいいでしょう?」
何を言っても駄目だと言われそうな雰囲気に幸希は折れた。
男は待ってましたかのように身を乗りだし、幸希の左手を掴んだ。
「はっ?」
男の手には細いペンが握られていて、その先が幸希の手に触れた。
「ちょっと…。」
男の力は強く、いくら引いてもびくともしなかった。
左手の甲にペン先が滑らかに当たりこそばゆかった。
「これ、俺の携帯番号。」
「えっ?」
離された手にはなぐり書きされたような番号の羅列が書かれていた。
「電話して。SNSでもいいから。」
「はっ?」
「君のアドレスは簡単には教えてくれないだろうから、俺の番号教えとくよ。」
男の顔がすぐ近くにあった。
「…かけないかも…。」
番号を見ながら幸希はぼそりと呟いた。
「その時は君の会社に電話するよ。」
サラッとした顔で男はペンを仕舞った。
(脅迫かよ!?)
幸希はぐっと思いを飲み込み、頭を上下に振った。
「わかりました。では。」
幸希は男の前のトレーと自分のトレーを持って立ち上がった。
「下げる場所、わかんないでしょう。」
男は立ち上がり、幸希の手からトレーを取り上げ、背を向けた。
(いーだ!)
「そうだ。」
ピタリと男が止まったので、幸希は急いで顔を戻した。
「俺、ここの特待生で、先生方からの評価も高いんだ。そこんとこ忘れないでね。」
振り向いて綺麗なウインクをする悪魔に幸希は叫んで逃げ出したかった。
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