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ボクからはしませんよ
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中へと通され、ベッドに座るよう指示をされた。
言われた通りにすると、水田くんはあの青い首輪を取り出した。
「……それはどうしても付けなくちゃ駄目なの?」
「はい。だって先輩はボクの猫ちゃんですから」
「…………」
彼の言っている事は普通じゃないと分かりきっている。だからこそ、無駄な抵抗はしない。
彼が前のめりになり、首輪を掛ける。
重たい鎖が前後にぶら下がり、僕とベッドを繋ぐ。
「月島先輩っ、何か飲みますか?」
平気で人に首輪と鎖を掛けるのに、普通に接する彼の事が理解できない。
「いや、いいよ」
何を見て、そんな風に笑うのか。
「そう、ですか…………ふふっ、残念です。せっかく先輩の為に美味しいピーチティーを淹れていたのになぁ」
くるくると目の前で回る水田くんは、数回その場で回った後、ピタリと体を止め、僕の頬に手を添える。
ひやりとする頬から、次第に親指が唇へと落とされる。
「“せっかく”先輩の為に淹れたのに」
「っ、」
声質が変化する。見開いた瞳の中に僕の姿が見えた。
ゆっくりと下唇をなぞられ、そしてまたゆっくりと、親指が口内に入ってくる。
「……ごめん、やっぱりお願いしても」
「ふふっ、もちろんですよぉ」
応えると、彼は晴々とした表情で笑った後、部屋を一度退出する。
咄嗟に目を逸らしてしまった。数十分前の出来事が遠い昔の記憶に感じる。
……帰りたい。日野のところに。
「せーんぱいっ」
水田くんがティーカップを持って戻ってくる。
ふわりと甘い桃の香りが部屋の中に広がった。
カップを受け取ると、水田くんが隣に腰を下ろす。
彼も同じく、ティーカップを片手に。
「ボク、ピーチティー好きなんですよね」
「……そうなんだ」
一つだけ推測と外れていたのは、言葉や応対にさえ注意をすれば、乱暴な事をされる心配はない。ということ。
「はぁーー。先輩と一緒に居られるこの時間がもう幸せです」
僕の肩に体重を預ける彼は、カップに口をつけながら何度もそう繰り返した。
幸せです。幸せです。
水田くんにとっての幸せが誰かを軟禁する事で成し得るならば、幸せというものはつくづく都合の良い言葉だ。
このまま、僕は下手に逆らわず、彼の機嫌を取ってさえいれば、その内抜け出す方法が見つかるはずだ。
考え過ぎていたかもしれない。
拘束された状態で、彼が僕を…………
「ねぇ……先輩」
一口、甘いピーチティーを飲むと、水田くんが僕の太ももを手の平で摩る。
思わず体が跳ねたが、尚も彼は猫なで声を出しながら擦り寄ってくる。
「ボクが先輩にひどい事するかも…って思ってたでしょ?」
「え……」
「ふふっ、そんな顔しないで下さいよ。大丈夫です怒りませんよ」
柔らかく笑う水田くんに、少しホッとしてしまう。
身構えていた自分がいた。また、あんな事をされてしまうのではないのかと。
「ボクからはしませんよぉ……月島先輩にひどい事なんて」
「…………そう」
本音から言っているのだろうか。
それとも僕の警戒を解く為に一時的に吐いた嘘なのだろうか。
「あ、そうだ。先輩、次期生徒会メンバーについてなんですけど」
「……?」
「もう決めちゃいましょうよ。明日!」
「そんな、急過ぎるよ」
「仕方ないじゃないですか、今の生徒会はもう終わったんですから」
「終わった?……なにが終わったの?」
応えは返って来なかった。水田くんはにんまりと不気味な笑みを零し、僕の膝の上に頭を乗せてくる。
問い詰める事も出来ずに、そのままにした。
「月島先輩……約束守ってくれたんですね」
「………………」
「体中から……日野先輩のにおいがしてます」
彼の言葉に、胸の辺りが苦しくなる。
日野の顔が頭の中にチラつく。
「っ……⁉︎」
その数秒もしない内に、激しく心臓が脈を打った。
やけに心拍数が上がる。頭が急にぼーっとして、思わず横に倒れてしまう。
ベッドシーツを強く握りしめ何とかこの動悸を抑えようとするが、目眩までして脳が溶けてしまいそうになる。
虚ろになる目で、必死に上を見上げると、逆光の中、怪しく笑う水田くんが僕を見下ろしていた。
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