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暗い夜 優也_1にしおりをはさみました!
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暗い夜 優也_1
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愁がまた勝手に部屋からいなくなったと気付いた時からわかっていた。
このまま逃げる気だろう。と。
でもそんなのは絶対に本人の意志じゃない。
ナツヒコの名前が出た瞬間の青ざめた顔色。震える声音。
あれは単純な恐怖だけじゃない。何か別の理由があるはずだ。
愁は簡単に話してはくれないだろう。
何とかナツヒコ本人に会ってそれとなく聞き出せないだろうか。
あんな酷い傷を愁の体につけた男だ。顔も見たくない。
その反面どこかで妬ましく思っている自分がいて、その思考に苛立つ。
俺の部屋を出てからそんなに時間はたってない。
もし部屋にいなくても終電も終わっているこの時間帯にそう遠くまで行ってはいないだろう。
ともかく愁を連れ戻さないと。
そう考えて手早く身支度を整えて奏介を呼び出し、走って愁の部屋に向かった。
そこでナツヒコに遭遇するとは予想していなかったが…
扉をピンでこじ開けて入って、全裸でぐったりした愁を見た瞬間、自分でもドン引きするほど頭に血が上った。
何より真っ赤に腫れ上がった尻に目を奪われて、駆け寄って抱き上げたかった。
そうしなかったのは、愁の表情にギクリとしたから。
両頬は随分な回数の平手をくらったのだろう。腫れて真っ赤になっていて。
焦げ茶色の瞳はガラス玉が入っているみたいにうつろで、絶え間なく涙を流していた。
首には帯状の赤く擦れた痕があって、首輪でもつけられているように見えた。
意識があるのか、気は確かか、確認するようにゆっくり話しかけて少しずつ近寄る。
俺がきた事にかなり動揺したようで泣きたくなるくらい悲しい声で小さく呟いた。
”どうして”と
俺の方が聞きたいよ。
どうしてだ。愁。
どうしてこんな奴に一人で会ったりしたんだ。
愁は俺に気持ちを全部くれると言った。
あの言葉は嘘じゃないはずだ。
俺の隣に戻ってきてくれ。
大切にしていきたい相手にこんな酷い事をされて黙っている方が無理だろう。
目の前でナツヒコの手が愁に触れた瞬間、物凄い瞬発力でその手を振り払ってやった。
許せなかった。
勝手に触るナツヒコが。
抱き寄せた体から雄の匂いが立ち上って、防御壁の薄い愁にも腹を立てた。
怒りで沸騰しそうになって殴ってでも追い出そうとした俺は、愁の意外すぎる一面を見る。
言葉を挟む余裕もなく、ただ見惚れて。
自分を殺してくれとせまる天使なんて初めて見た。
華奢な体を晒して、誘うように手を取って首筋に当てる。
その一連の仕草は同じ男とは思えなかった。
哀れむように薄く笑い命を差し出す。
誘惑しているかのような愁の視線。その先にいる男が今にも押し倒しせる距離にいるのが腹立たしくて、1秒でも早く遠ざけたかった。
俺がその立ち位置にいたら、とっくに抱きしめていただろうから。
白い首筋にぷくりと赤い液体が浮いてきたのを見て、こっちが驚いた。
まさか本当に自分で自分を切るやつがあるか!と。
その時点で既に俺は冷静ではなくなっていて、追い出す事しか考えられなかった。
動揺している事に気付かれないように刃物をその手から取り上げ、壊れそうな肩を守るように抱きしめると愁はがたがたと震えだした。
そして。俺にしがみついて”ごめんなさい”と謝る。
愁の方から抱きつかれた事であんなに腹をたてていた事が嘘のように消えていた。
俺の気持ちもずいぶん勝手な物だな。
でも、愁は俺を選んだ。
気持ちは同じはずだ。
約束させておかなくては。二度と無断でいなくならないと。
逃亡癖は直さなくては。
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