アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
君の話を聴こうか、[君の話] にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
君の話を聴こうか、[君の話]
-
1人残された部屋で、能戸さんのベッドに寝転び微睡む。昨夜、兄ちゃんと紅葉と映画観てて寝るの遅かったからか、とんでもなく眠い。
彼はもう直ぐコンビニから帰って来ると思うけど…レポートの資料のコピーついでに、アイスを買いに行ってくれてる。それを待つべきだとも分かってる。でも眠そうだから寝てろって言ってくれたし…。
やっぱり睡魔に勝てず、僕の目はいつの間にか閉じてた。ほんの微かに扉が開く音を聞いた気がしたけど、目蓋を開ける気にはならず枕に横顔を埋める。
誰だろ。
誰かな。
きい兄ちゃんの友達?
うん、たぶん。
寝てるね。
ね。
ひそひそと話す、子供特有の澄んだ柔らかな声。ん?座敷童子…、ハッとして目を開けた。
「わっ、起きた!」
「本当だ!」
ベッドの上に顔を乗せ、床に座り込んだ男の子と女の子、2人共小学生だと思う。全然座敷童子って服装と髪型じゃない、半袖Tシャツ姿のツインテールとショートカット。
「……。」
何だ、人間だ。いや、そうか夏休みだから…。体を起こすと、子供達の視線が僕を追って来る。
「ねえ、能戸さんの…儀一さんの妹と弟かな、小学生?」
「うん。私は4年生。」
「僕は3年生。」
能戸さんとかなり歳が離れてる、でも顔は似てて納得した。いつも玄関から能戸さんの部屋へ直行だったけど…良く考えてみたら、所々に子供がいる家ってヒントはあった。駐車場の隅にある小さな自転車とか、庭に置かれた虫取り網と虫カゴとか…。
それに彼は、口癖の様に僕の事を可愛いと言い、時々頭を撫でる。1歳しか違わないのに子供扱いされてるなあ、とか思ってたけど嫌じゃなかった。成る程、この子達と接してる時の癖が出ちゃうのか。
「お兄ちゃんは誰?」
じっと僕を見る瞳が2人分。
「こんにちは。僕は桜井楓。君達のお兄ちゃんの友達だよ。」
こんにちはと2人の声が揃う。正確には、最近付き合う事になったばかりの恋人だけど…、相手は小学生だし友達って事で。
「そっかあ、きい兄ちゃんは?」
「アイスを買いに行ってるよ、」
「やった!アイス!」
あ、この子達の分あるかな?電話してみようか、そう思った矢先、玄関の開く音に2人の子供がばっと立ち上がった。
バタバタと扉を開けたまま走り去る、かなり素早い。クーラーの効いた部屋に生温い空気が入り込む、遠くなる足音と声。
「きい兄ちゃん!アイス!」
「アイスちょうだい!」
叫びながら階段をドタドタと駆け下りて行く。あ、こらっ!とか能戸さんの声が聞こえる。
「凄いな、子供パワー。あの能戸さんが慌ててる、ははっ。」
面白い。能戸さんの翻弄されてる姿でも拝みに行くかと、ベッドを降りて階段に向かった。
「アイス全部盗られた?」
僕が階段を降りたら、入れ違いに子供達は玄関を出て友達の家へ向かってしまった。本当、素早い。こんな調子で今まで会った事がなかったんだな。
「いや、グレープフルーツのは酸っぱいから要らないってさ。ほら、やる。」
袋ごと渡されて受け取る。
「ははっ、能戸さんのが無いね。」
「俺のはゼリー、その袋の中にあるよ。念の為、あいつらのバニラアイス買ってたから大丈夫。」
「何だ。さすが、きい兄ちゃん。」
じろっと見られた。どうやらお気に召さないらしい。
「儀一、って呼んでみろよ、」
「きいち。」
って言い逃げして階段を急いで登る。能戸さんも追いかけて来た、逃げ切れず腕を掴まれたまま部屋に入ると閉めた扉に鍵が掛けられ、壁に押し付けられた。手に持ったままのアイスとゼリーの入った袋がカサリと音を立てる。
「何、」
「もっかい呼んで、」
「…儀一、」
「うん。その顔が見たかった。」
くそ、見られたくなかった。名前呼ぶくらいで赤くなるって何だよ。恥ずかしい。
「可愛い。」
そう言って横髪に手を入れて来る、頬に触れる手の平。固定される顔と、僕の足の間に割り込む膝、
「キスしていいか?」
「いつも聞かないくせに、」
彼の唇が近付く、僕の方が身長高いから体を屈めて重ねる。膝に冷えた袋が当たった。あ、アイスが溶ける…。
「んっ、ぁ、」
キスしながら、僕のTシャツの裾から入る手の平、横腹を撫でてシャツを捲りながら上へ進むのを咄嗟に抑えた。顔を少し逸らして唇を離す、
「待って、アイス溶ける、」
不満そうな顔、でも手は服から抜いてくれた。
「わざわざ買って来てくれた、お勧めのグレープフルーツ味でしょ。食べたい。」
「分かった、」
はぁ…って息吐いて、彼は僕の手を引いてベッドに腰掛けた。隣りに座ると、袋からゼリーとスプーンを取り出して渡す。
溶けてないか気にしながらカップアイスの蓋を開けた、周りが少し柔らかい。でも、まだまだしゃりしゃりのシャーベットを木のスプーンですくって一口。
「うわ、美味い。」
これ、かなり好き。すっぱ美味い。ちゃんとグレープフルーツの苦味も感じられる。やっぱりグレープフルーツは苦味がないと!
僕は生のグレープフルーツもよく買って食べてる。それくらい好き。
「良かった。」
こっちを見てる、その声が優しい。ゼリーはまだ蓋も開けずに彼の手の平に収まったまま。きっと僕の反応を待ってたんだ。
何だろ、この気持ち。こんなふうに家族以外の誰かに気に掛けて貰う事、それが嬉しくて愛しくて胸が熱くなる。
「ねえ、妹弟がいるとか知らなかった。」
「ああ。あいつら、いつもは学童保育所に預けてるんだけど、今日は午後から友達と学校のプールに行く約束してるって話で家に居たから。」
「そっか、だから会わなかったのか。それに歳も離れてるんだな、」
「そ。でもちゃんと血は繋がってる。」
それって…歳が離れてるから、うちみたいに再婚同士の連れ子とか思われる事が有るのかな。
「顔見れば分かるよ。そっくりだし、」
「そうか?似てるかな。」
「うん。」
あの2人も綺麗な顔立ちだった。きっと学校でもモテるんだろうな。そして大きくなったら、きい兄ちゃんみたいに自分の顔を餌に気に入った奴をあちこちで捕まえたりしてね。…うん、それは止めさせないと。
「僕は儀一の事を知りたい。もっと話を聴かせて?」
ふふふ、と擽ったそうに笑う。半月型の睫毛が瞬く、薔薇色の唇は魅惑的に笑みを浮かべて、とっくに捕まえてる筈の僕を誘惑する。
「勿論、」
さあ、君の話を聴こうか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
230 / 235