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真琴side
今晩のおかずのエビチリは我ながら上手く出来た。匠も旨い旨いと豪快に食べてくれて、あっという間にお皿は空になった。
『真琴の飯はどれも旨いけど 特にコレ 俺すげえ好きだわ。』って少し垂れた目を更に下げてニヤッと笑った。昨日も一昨日も同じ台詞言ってた。
匠は 俺が何を作っても まるで最高のレストランで食べた料理みたいに褒めてくれる。
その後 匠が片付けてくれて 俺はTVを観てる振りをしながら いつも通り匠をチラチラ盗み見てた。
キッチンに立つ匠は壮絶に格好良くて、エプロンなんて付けてないけど "イケメン料理研究家" って言われたら誰もが納得してしまう位 様になってる。相変わらず料理だけは苦手だけど、片付けなら もう文句のつけようが無い。淋しいけど "監督" の出る幕は無くなった。
そして俺はいつも通りコーヒーの準備をする。匠に買ってもらった手回し式のコーヒーミルで丁寧にコーヒーを淹れるんだ。俺の大好きな特別な一時。
だけど俺は別の意味でもドキドキしてた。
今日は こっそりプリンを作った。この前 お風呂で熱く語ってたから喜んで貰いたくて。
匠 本当は甘い物が苦手な癖に、俺が自分だけデザート食べるのを遠慮しない様にいつも俺のを一口食べてくれる。そんな匠が珍しく給食のプリンは好きだったと言った。しかもカラメルソースが少ないって怒ってる。か…可愛い…。俺はその時、カラメルソースたっぷりのプリンを作ろうと こっそり決めた。
んで、作ったはいいけど ぶっつけ本番だったから 美味しいかどうか不安だった。でも匠は そんな俺の不安なんて吹き飛ぶ位の反応をしてくれた。旨いって一個ペロッと食べてくれて、有り難うって俺を抱き締めてくれた。ホッとして匠を見ると、滅多に泣かない匠が泣いてた。ビックリしたけど それは嬉し涙だったみたいで 俺の方こそ泣きたい位嬉しかった。
俺は毎日匠に恋してる。
でも…それと同時に 苦しかった。
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『出て行く』と言われた日、あの日は俺の人生の中で 一番長い一日だった。
年末あたりから匠の俺に対する様子が変で 嫌な予感はしてたけど、仕事で疲れていたのは知ってたし もしかしたら体調がすぐれないだけかもしれないと自分に言い聞かせ あの時ちゃんと匠と向き合わなかった。自覚は無かったけど 俺は多分現実から目を背けていたんだ。
結局、それから辛い半年間を迎える事になるんだけど、その間だって いくらでも匠と話をする時間はあった。なのに俺は被害者面して ただ時間が過ぎるのを指を咥えて見てただけだった。
いや、指を咥えて見てた…とは少し違う。匠の為に家事も頑張ってたし どんなに会話が無かろうと せめて挨拶だけは続けてた。まあ、結局それも途中で挫けて言わなくなってしまったけど、それでもあの時は出来るだけの努力はした…つもりでいた。
だけど 根本的に努力の仕方が間違ってた。俺は無意識の内に 匠の浮気を無かった事にしようとしてた。何も問題など起きて無かった昔の生活を取り戻したかった。俺は間接的に匠に "俺に謝らせない" 手助けをしていたんだ。
お互い歩み寄らないまま時間だけが過ぎた。俺が辛かった半年間は 同じ位匠も苦しんだと思う。
そして あの日を迎えた。
涙で始まり 涙で終わった 激動の一日だった。
あの日を境に匠は変わった。まず、会話が増えた。匠は元々 口下手で 今まではどちらかというと受身で、俺が喋って匠が相槌を打つっていう感じだったんだけど、本当に同一人物?っていう位、積極的に喋ってくれる様になった。
家事も積極的に手伝ってくれる様になり、別に以前の匠に不満なんて無かったけど、やっぱりこうして二人協力して過ごす日々は楽しい。
日曜日はたいてい、歩いて十五分の大型スーパーに買い物に行く。本屋に寄ったり 雑貨屋を覗いたり フードコートでランチしたり。男二人でも特に浮かないその場所は 隠れデートスポットで、俺の密かな楽しみの一つだ。
そこで買ってもらったアンティークな手回し式のコーヒーミルは俺の大切な宝物になった。
食材売り場では匠がカートを押しながら俺の後ろを雛鳥みたいに付いてくる。レジで会計する時、知らない間にポテチやジャーキーが入ってたりカゴに入れたはずのピーマンが返されてたり…。ジトッと見ると 悪戯が見付かった子供みたいに慌ててそっぽを向く姿が堪らなく愛しい。
俺を不安がらせない様に 仕事で帰りが遅くなる時は必ずLINEをくれるし、駅に着いたら電話もくれる様になった。それに俺の帰りが遅い時は駅まで迎えに来てくれる。早く逢いたいからって。でも俺が匠を迎えに行こうとすると、夜道の一人歩きは危険だから駄目だって言うんだ。俺だって男なのに。
こうして匠の愛情に包まれて、俺達は とても上手くいっていた。
そう、表面上は…
匠は触れ合えなかった半年間を取り戻すかの様に 俺に構う様になった。俺も嬉しかったし 幸せを日々噛み締めてた。
だから初めは気にしてなかった。身体が強張るのも 僅かに震えるのも、匠に触れられるのは久し振りだし単に緊張しているだけだと 自分に言い聞かせてた。
おかしい…と自覚したのは二週間位経った二度目のプロポーズの後。指輪を貰って幸せ一杯だった俺は、その日も恥ずかしかったけど匠と一緒にお風呂に入って 二人で湯船に浸かってた。心は凄い満たされてるはずなのに、嫌な汗が出るのを感じ、必死にその考えを打ち消してた。
その時、後ろから抱き締めてくれてた匠が俺の耳を甘噛みしてきた。そして匠の舌が耳の穴に侵入してきた瞬間、ハッキリと嫌悪感を覚えた。心臓がバクバクして身体の震えが止まらなかった。
『嫌っ…!』
思わずそう叫んで匠から離れた。ショックだった。あんなに待ち望んでたはずなのに自分の意志とは関係無く身体が咄嗟に匠を拒んだ。匠も俺も驚いて暫く沈黙が続いた。
『あ… ちがっ…… 』
『……ごめん、真琴。嫌だった…?』
嫌な訳がない。嫌な訳がないのに 身体が強張って動かない。違うって説明したくても 上手く口が動かなかった。ただ 涙だけがポロポロ溢れた。
匠に嫌われる…
そんなはずないのに その時の俺は そんな思いに囚われて、俯いたまま顔を上げる事すら出来なかった。
匠がその時どんな顔をしていたか 俺は知らない。
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