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棚倉side④にしおりをはさみました!
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棚倉side④
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声を掛けてくれたのは女将だった。
いつも笑っていて本当に感じのいい人だ…美人だし。
「一緒に出たんですけど隼也さん写真を撮り始めたので帰って来ちゃいました」
暗い感じにならない様に極力明るく言ったつもりだった。
だけど女将の真っ直ぐな視線に俺は全てを見透かされている様な居心地の悪さを感じる。
「隼也写真の事となると昔からそうなの。今でも変わらないのね…澪くんを放っとくなんて酷い男」
この人は俺の知らない隼也さんをたくさん知っている。
俺は今日初めて人物以外の写真を撮る隼也さんを見た。
何もないスタジオで人物を撮るのとは全然違って、太陽の下で無心にシャッターを切る隼也さんの横顔にドキッとした。
邪魔をしたくなかった。
だから一人で帰って来たんだ。
昔は…風景とか撮ってたんだ…。
「放っとかれた訳じゃありません。隼也さんの邪魔をしたく無かったから俺が置いて来たんです…」
そう、喧嘩した訳でも放っとかれた訳でもない。
俺が声を掛けられなかっただけ。
今まで見た事のない隼也さんが怖かっただけ。
「澪くんって本当にいい子ね…隼也には勿体無いわ。今回だって隼也のお見合いにわざわざ付いて来てくれたんでしょ?」
「……え?」
お見合い…?
何それ…そんなの聞いてない…?
あ…もしかして京都での用事って…。
そっか…そういう事だったんだ。
俺一人で浮かれてバカみたいじゃん。
隼也さんは俺の事好きでも何でもないのに…。
俺…遊ばれてただけなのに…。
なんなんだよ…マジで…。
「ちょっ!!澪くん…なんで泣くのよ…」
俺…泣いてる?
ダメだ、これ以上迷惑をかけちゃ…。
俺は俯いたまま立ち上がり早々に部屋に戻った。
もう自分の感情が抑えられない。
俺は部屋の隅で膝を抱える。
どうしたらいいのか分からない…どうしたいのかも…。
隼也さんは京都にお見合いをしに来た。
そのついでに俺を誘ってくれて。
隼也さんのお見合い相手ってどんな人なんだろう。
こんな旅館でお見合いするくらいだから、もしかしたらすごいお嬢様かもしれない。
俺よりも10歳も年上なんだ。
隼也さんだって結婚を考えていたのかもしれない。
少なくとも俺みたいなのと遊んでる場合じゃないよな。
よし、もう大丈夫。
隼也さんが戻って来たら今まで通りにしよう。
俺は隼也さんに幸せになって欲しいから。
それくらい俺にとって隼也さんは大事な人なんだ。
俺は十分隼也さんに幸せにしてもらったから…この旅行で最後にするから…。
「ただいま…って…お前そんな隅っこで何してんの?」
ヤバ…帰って来た。
いつも通り…いつも通り…。
「別に?写真いっぱい撮れた?」
それから隼也さんはその日撮った写真を見せてくれたけど、俺にはそんなの見る余裕はなかった。
とても綺麗な写真だったけど、それよりも隼也を感じていたかったから。
きっとこれで最後になる。
だから忘れられるまで寂しくない様に隼也さんを焼付けさせて…。
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