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4.冬椰壱成と言う男-12
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会いに来ると言って来なくなった人。
父親と同じ目の色をしたユキジを捨てた人。思い出したくもない人。
「憎いですね……。何もかも……」
この目で生まれて来なければ、母親はユキジを愛してくれたかもしれない。
自信のある人間になれたかもしれない。
ユキジは昔からそう強く思っていた。
「黒髪なのに目が青とか気色悪いじゃないですか……。僕は……この目のせいで……」
ユキジは昔の嫌な記憶が蘇り、言葉を噤む。
今何か喋ったら、また涙を流してしまう。それだけは壱成の目の前でしたくはなかったのだ。
「話したくないならいい」
「え……?」
「なんだ? 話したいのか?」
その言葉に、ユキジは頭を横にブンブン振る。すると、壱成が優しく笑った。
「俺は、そっちの目のお前の方が好きだけどな……」
「え……?」
ユキジは一種動きが止まる。
壱成のその言葉は、噓偽りでも同情からでもない、本当にそう思っての言葉だと伝わったからだ。
壱成は、自分が思っているよりも良い人なのかもしれない。そう、今思った。
「それがそのままのお前って事だろ?」
自分は単純な人間なのかもしれない。その言葉に、ユキジはありのままの自分を受け入れてくれた壱成に好意的になる。
「こっちの方が……いい?」
「あぁ。俺はその方が良いと思う」
「そっか……」
そんな風に言われるなんて思ってもいなかった。今まで出会って来た人間のように、奇妙な物を見る目で見て来ると思った。でも、壱成は違かった。
「僕……誤解してるのかも……」
「ん? なにか言ったか?」
「ううん。言ってないです……」
冬椰壱成と言う男は、自分が思っているよりも、とても、とてもとても優しい人間なのかもしれない。
ただ、恋愛に対して不器用で、でも、相手(秋幸)の事を大切に想っている。その想いが強いからこそ、誰かを身代わりにしないと治まらない。
「飯は?」
「え……?」
「食べたか?」
その言葉を聞き、さっきまで抱いていた物が薄れた。今はただ、壱成の事が知りたい。
「ううん。食べてない……です……」
だから、そんな言葉がすぐに出た。
ほんの一時間前の自分には信じられない言葉。帰りたくて帰りたくて仕方なかったのに、今はその気持ちが不思議とない。
「じゃ、何か作ってやるよ」
そう言って、キッチンへと向かう壱成の後をユキジは追う。そして、初めて人に手作りを食べさせると言った壱成の手作りパスタを食べた。
その味は絶品で、ユキジは生まれて初めて、他人が作った物を遠慮せずおかわりしたのだった。
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