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7章-p1 帰還
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リラレルは花歌を歌いながら足取りも軽く、どんどんと道を進んでいた。
「ところでリラレル様次はどちらへ」
そうザムシルが聞くと、リラレルは立ち止まって振り向き少しハッとした表情浮かべた。
「言っていなかったかしら、我が家に帰るのよ!」
ザムシルも足を止めると、後ろから付いてきたダードがようやく追いつくと口を開いた。
「なんだもう帰るのか」
「帰りたくなかったかしら?」
「いや、俺はどちらでもかまわない」
ダードはそう言ってうなづいた。
「ザムシルは?」リラレルが聞くとダードもザムシルに視線を寄せた。
「仰せのままに致しますよ。」
それを聞くとリラレルは満足そうに微笑んで、再び歩きだした。
歩きづめにしたせいもあってか帰路は短く、二晩の野宿を経ただけで家へと到着した。ザムシル曰く、ぐるりと回るように歩いてきたためらしい。
着いたのは昼過ぎ頃、家の周りの森に入ると小さな妖魔たちが出迎えて声をかけてくれた。
ザムシルは家に到着するな荷物を置くと掃除を始めた。それをみてダードは何か手伝おうかとうろうろしていたら、「作業効率の為を思うならお前は外へ出ていろ」肩を掴まれと割と真面目な顔で言われてしまった。
仕方がなく外へ出ると、リラレルは庭の切り株に腰掛けて遠くを眺めていた。ダードは近付いて横に立つリラレルと同じ方向を眺めてみた。
「何か見えるのか。」
ダードが質問するとリラレルは首を横に降った。
「いつもの森があるだけよ。でもそれがいいの。草と土の匂いと、葉の擦れる音と、優しい風。平和って素敵だわ。」
ダードもリラレルの横に座ってみる。
「リラレルからすると今は平和なのか」
それ聞くとリラレルはダードの顔を見た。
「世界全体を見れば平和では無いところも多々あるでしょうけど、私自身の現状からいうと相当平和なほうだわ。あなたにとってはどうかしら?」
そう聞かれたダードの脳裏にはナズの姿がよぎった。同時にザムシルの笑顔を思い出し、横にいるリラレルの笑顔を見た。
ひざを抱えて少し視線を落とし、リラレルが見ていた森の方を見る。風がひと吹きすると、木々がサワサワと鳴り、花が躍るようにゆれた。
「俺は、本当にまだここに居てもいいのか。」
「残念だけど、もうここに居なくてはいけない存在なのよあなたは。眷属になった事、あなたはどの程度の感覚でいるのかは知らないけれど、わたしはすでにあなたの一生を貰っているわ。今から悩んだり考え直すのは止めないけど、どう足掻いてもあなたはもう私のものよ。」
リラレルは不敵に笑ったが、ダードは照れた様に笑った。
「それはザムシルも一緒なんだよな。」
「愛しているのね、ザムシルの事。」
そんなふうに目を合わせながら真剣に言われて、ダードはさらに恥ずかしさが膨らんで言葉を返せなかった。
「私、人間って素敵だと思うの。」
そよ風に載せるようにふわりとリラレルが言った。
「だいたいこの価値観を同族に話すとバカにされるわ。でもね、私は人間が惨めな生き物なんて思わないわ。」
人は妖魔よりも弱く脆く、短い命を必死に生きたり無様に命を捨てたりする。感情に振り回され、くり返し過ちを犯す。とんだ馬鹿もいれば、妖魔と同等に渡り合う強者もいる。一人一人の人生が、まるで小説の物語のように奇妙で不思議で面白い。だから、私は人が好き...とリラレルは語った。
「俺は妖魔の感覚が分からないからなんとも言えないが、そんなに考え方が違うものなのか?」
「違うわ。弱い妖魔もいるけど、基本的には寿命も体の丈夫さも違うから、命の捉え方も全然違うもの。」
「そうなのか、リラレルは人と変わらないように感じるからそんなに気にならなかったな。」
「本当!お世辞でも嬉しいわ!」
リラレルはダード腕を揺すりながら笑った。
「ねぇ、だからあなたのこれからも沢山見せてちょうだいね。楽しみにしているわ。そうだ...」
そう言いかけた時、ザムシルが玄関から顔をのぞかせた。
「リラレル様、簡単にですが部屋を整えたので、いつでもお入りください。」
「ありがとう、わかったわー」
リラレルは立ち上がりザムシルに手を振ると、家の方へと歩き始めた。「行きましょ、ダード」とリラレルに言われてダードも立ち上がると、リラレルに続いて家へと向かった。
リラレルの言いかけた言葉が少し気になったが、きっと大した話題ではなかったのだろうと思い気にしなかった。それより、キモを冷やすような旅路の終わりと、この安心しきれる家へと帰ってこられた安堵をダードな全身で感じていた。
家の中へと戻ると、ザムシルが紅茶をいれてくれた。いつもの場所でテーブルを囲み座る。
リラレルは例の手帳を取り出し、パラパラとめくっていた。
「ネタは集まったのか」
ダードが聞くとリラレルはニッコリと笑った。
「ええ、いい感じにね!」
「本当に執筆される予定で?」
キッチンからザムシルが尋ねる。
「もちろん!目指せ大ベストセラー!」
リラレルが元気よく手を突き上げる。
ザムシルは茶菓子を持ってくると、自分も席についた。
「ジャンル的には、冒険ドキュメンタリーですか」
「それは書いてみないと分からないわね」
「なかなか濃い内容になりそうだな。」
ダードは今回の旅を振り返ってそう言った。
「お前にとってはそうだったかもしれんな。」
「2人はそう感じない?」
「とっても楽しかったわ!いろんな人に会えたし、いろんなことを知れたしね。」
「危険だったとは感じないのか…」
「そんなに危険なことがあったか?」
「...」
本当に平然とした顔でそんなことを言うものだから、きっと自分と彼女達では想像もつかないくらいに人生経験の差があるのだなとダード思った。
「ダードは楽しくなかったかしら?」
リラレルにそう尋ねられて、少し考えてみた。
今回の旅は、危険なこともあったしヒヤリとすることも多々あった気もする。しかしリラレルとザムシルが一緒にいる事で、心強く安心感もあった。結局の所、2人のおかげもあって無事に帰宅することが出来た。きっと一人でいたらこんなに沢山の場所へと足を運ぶことはできなかったし、普通じゃ経験出来ないこともたくさん経験出来た。そして何りより、ザムシルとの思い出を増やせたのは一番の嬉しいことだ。
「なんだ人の顔をジロジロ見て、紅茶の味に不満でも?」
「いいや、2人と旅ができて俺も楽しかったなって」
「そうね、私もとっても楽しかったわ。またみんなで行きましょうね。」
リラレルが言うとザムシルとダードは一緒にうなづいた。
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