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28.そういうことやったんや。
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ぼりぼりぼり。
せんべいが軽快な音を立てて俺のお腹に収まってく。お砂糖のまぶされた、ざらめせんべい。高校の頃から中村と一緒によく食べてて「これ、俺好き」って言ってから、色んなとこのを毎日のように中村が、買ってくるようになった。
そのせんべいをテーブルに肘をついて手の上に顎を乗っけて、ぼりぼりと噛み砕きながらテレビを見ていた。昔はブラウン管って言ってたけど今ってなんていうのかなぁ?なんて、全く現代っ子に着いていけてない俺はそんなことを思いながらプラズマテレビのきれーな画面を見つめた。
モデルだけかと思ってたら最近。
「テレビにも出るようになったんやな」
といってもトークには自信がないと豪語するもんやからほんまに只、差し当たり女性の目の保養と言ったところか、座ってるだけやけど。多分、鈴木さんが上手くそういう番組だけ選んでるんやろな。
もう1枚せんべいに手を伸ばしたところで、中村が不意ににっこり笑った。
「あ」
一瞬動きが止まる。隣の女優さんに話しかけられてめっちゃにっこり。よく観る可愛いその女優さんにだけ向けられた笑顔。中村はほんまに綺麗に笑う。生まれ持った才能と言っていいほど緩やかに人に安心感を与えるその不思議な笑顔。
その後直ぐに司会者が中村に話しかけてそのまま番組は進行していった。
あの人きっと中村に惚れたな。
変な確信を持ってテレビを消した。結局せんべいは食べなかった。
よいしょとテーブルに手を着いて立ち上がり急須とマグカップを持ってキッチンに入る。冷蔵庫を開けると、いらないというのに中村が買ってきた水が何本も入ってた。
自分が飲むからと言って(ほんまにあいつは水分をよく採る)どんどん増えるペットボトル。一本取り出して冷蔵庫の横に置いた。
きっとあいつはこれからもっと売れっ子になって、雑誌だけやなくてテレビにもどんどん出て、めっちゃ人気者になっていくんだろう。現に今やってもうあちらこちらの媒体から引っ張りだこみたいやし。(鈴木さん曰く、何日も家を離れる仕事は絶対断るらしいけど)
でも今からはきっと上坂社長がそれを許さなくなってくやろう。やって、あの事務所のトップやもん、中村。いつまでも我儘が通用するとは考えられへん。
そしたら、
「どうなってまうんやろ」
中村はここに帰ってくるんだろうか。いや、帰って来るって表現はおかしい。やってここは中村の家やないもん。たまたま隣の、たまたま同じ高校の、たまたま知り合って一緒につるんでた先輩である俺の家に、遊びに来てる。それだけやもん。
でも、食器を見る。お箸は二膳。お皿を見る。同じ皿が必ず二枚。洗面台に行けば彼女でもないのに歯ブラシが二本。マグカップなんてキショイことにおそろいだ。
「なんで」
なんであいつはモデルなんだろう。なんでモデルなんて仕事選んだんやろう。
只でさえ目立つのに、芸能界なんて尚更や。俺なんて直ぐに手の届かないとこに行ってしまうのなんて目に見えてる。
「俺なに考えてんの」
シンクに手を着いて蛇口を捻る。ジャージャーと勢いよく水が流れていく。
ほんまに今何を思った?中村が成功することはええことやないか。何をそんなに焦ってる?
沖縄から帰って来てからなんだか変だ。海で中村と遊んだことが毎日のように夢に出てくる。高校時代に戻ったみたいに、中村と二人でおっきな声で笑って遊んで。懐かしいのと一緒に悲しさが込み上げてきた。昼間、外でああやって中村と遊びまわるなんてこともうずっと出来ないんやと思うと目の奥が熱くなって喉が苦しくなった。
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