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32.これもまた愛。
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「好きになるって、苦しいんやな」
「・・・」
「なんでやろ、なんで、気付いてもうたんやろ」
「中村?」
「・・・うん。・・・な!変なヤツやろ、俺!」
「いや」
まずいって顔して慌てて自分を否定して、目の前で手をぶんぶんと振る。せやからすぐさま言うてやった。「変やない」って。やないと友ちゃんはきっと崩れてしまう。
「沖縄でなんかあった?」
「ううん、なんもない。なんもないけど、一緒に夜海で遊んだ。学生時代みたいに、めちゃくちゃなことして、暗くてわからんしって思って、おもくそ笑った」
「そか。で?」
「で?」
「で、なんでそう思ったん?好きって気付いたってことやろ?その・・・中村のこと」
「・・・うん。・・・諒、引かんの?」
「別に。そんなん今時、珍しいこととちゃうやんな」
「そ、そか。そうなんや」
ぱあっといつもの友ちゃんの笑顔が戻った。完全にやないけど、俺が大丈夫って言うことで少し気が晴れたんやろ。きっと自分のことずっとおかしいって思ってたんやろうな。それやったら友ちゃん、俺も同じやで。俺も頭のおかしいヤツや。
ぽつりぽつりと話す友ちゃん。たどたどしく。
「その、なんかわからへんねん。テレビ出てるあいつ見て、急に思った。ほんまは、ずっと思ってたんかもしらん。でも、仕事で疲れてんのに絶対俺の家に来てご飯食べて帰ったり。おやつ作ったらめっちゃ喜んだり。掃除してやったら必ずケーキ買って来てくれたり。色んなとこのざらめせんべい買ってきたり。ご飯の後には必ずコーヒー入れてくれたり。そんなことが、毎日が、なんか愛しくて、悲しくて、苦しいって思った」
「うん」
「そしたら、急にぶわーって、中村が帰ってこんくなったらどうしようって、不安になって、めっちゃ悲しくなって。胸が苦しくて仕方なくなってん」
「うん」
「あいつの邪魔はしたくない。その思いは絶対変わらん。でも、そうしたらきっと中村とは、それこそほんまに住む世界が違う人間になってまうって。あいつに言うつもりなんて毛頭無いけど、今の状態続けるのも、終るのもどっちも苦しい。ほんま、俺の身勝手な考え。中村にはなんも関係ないのに、勝手に苦しんでんの」
てへ、と悲しげに笑った。
そんなことないで、友ちゃん。あいつは、友ちゃんが気付くずっと前から、それこそ俺の次くらいに友ちゃんのこと好きになってる。しかも、超鈍感な友ちゃんは気付かんかったかもしれへんけど、それこそ結構バレバレのアピールもしてたんやけどな。ただ、友ちゃんの頭の中に、中村がそういう対象として認識されてへんかったらわからんかっただけやで。ま、俺もその対象の一人やけどな。
悲しそうに笑う友ちゃんなんて見たくなかった。少なくとも俺といる時は本当に、素直な笑顔を見てたかった。俺はそれをさせる自信があった。でも、こうなったら、もうあかんのやろな。友ちゃんの気持ちをコントロールするなんて、そんなことできるわけない。やって、俺も好きやもん。友ちゃんのことずっと、ずっと昔から好きなんやもん。
「好きな人の足枷にはなりたくないもんなぁ」
「うん、そやねん」
「あ、うん」
しまった、口に出てた。でも
「悩みどころやな友ちゃん」
「うん。でも話聞いてもらえてちょっとすっきりした、ありがと、諒」
「ううん」
俺にも悩みが生まれました。でもそれは、俺の好きな人の悩みで、俺のモットーは好きな人の為になんでもしてやりたい。それなんです。こんな矛盾したことがいまだかつてあったでしょうか。はあ。助けて、神様。
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