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青木さんの恋(番外編)
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全部、好き。
そんな事、初めて言われた。
「え、えっと……………椅子は、ここでいいかな?ああっ、ハサミハサミ!こんな所にあったら邪魔だよねっ」
今日、2週間振りに慶太くんに会った。
久々に見る慶太くんは、シェフスタイルが殊の外格好良くて、馬鹿な俺は思わず声をかけた。
だって、本当に格好良かった。
初めて会った時から格好良かったけど、今日は特に素敵だったな…………………。
「はぁぁ、いいなぁ~慶太くん。俺も、イケメンになってみたい……………………」
イケメン。
慶太くんがウチへ来るようになって、いつも思っていた事がある。
慶太くんは、とても格好いい。
自分も、慶太くんみたいに格好良かったら、人生が少しは輝いてたかなぁ……………って。
少しは……………………。
閉店後の静かな店内。
作業台の上を片付ける俺の目は、薄暗くなった店の中でも輝く薔薇のショーケースへ注がれる。
真っ赤な薔薇の花。
そこにいるだけで、パァッと華やぐ。
まるで、慶太くん。
俺はせいぜい……………………と、横へ視線を動かせば、小さな白い花が犇めく、かすみ草。
「いやっ!かすみ草だって、立派な脇役!!」
店内にこだまする、自分の声に虚しさが募る。
脇役で威張れるって、ある意味スゴい。
かすみ草、ごめん。
「ハッ…………………いけないっ!慶太くんにパソコン見てもらうから、作業台片付けてたんだった!」
折角、昼間約束したのに………………。
どうも、俺は抜けている。
昔から。
小学生の時、好きな子に告白するつもりで、下駄箱へ手紙を入れたら、そこは学級委員の南くんの下駄箱だった。
中学生の時、今度こそ!と思って、意中の子の帰りを狙って行ったら、ストーカーと間違えられた。
高校生の時なんか……………………。
「止めよう……………………自分が惨めになる」
うん。
作業台へパソコンを置きながら、俺は自分のダメダメさに項垂れる。
『俺は、どんな青木さんも、好きですよっ』
どんな、俺も…………………。
「……………………慶太くん、俺のどこが好きなんだろ」
あの日から、やたらと頭に浮かぶ、慶太くんの言葉。
『好き』
会えなくなって、それは回数を増していき、ついには仕事中も甦る。
これは何だろう?
自分でも不思議だが、慶太くんの『好き』に、嫌悪感はなかった。
「失恋したばかりで、誰かにすがりたかったのかな」
歳上のくせに、歳下にすがる…………………。
慶太くんよりも、自分に嫌悪感。
最低。
「わぁっ!!ダメダメっ!また暗くなってるぅっ」
ガタンッ………………………!!
「ぉわ………………っ!?」
頭を振り、叫んだ拍子に、自分が置いた椅子に躓く。
どこまで抜けてるんだ!
俺は、思わずバランスを崩し、椅子ごとその場に倒れそうになった。
「青木さん…………………っ!!」
え…………………………。
バフッ………………………
身体を包む力強い腕と、慶太くんの…………声!?
「もうっ……………ホントにあなたは、危なっかしい」
「けっ、け………………慶太くんっ!!」
男に抱きしめられるなんて、初めて。
よろけた俺の身体は、見事慶太くんに受け止められていた。
「ごっ、ごめんっ!!」
慌てて身体を起こし、顔を上げたら、慶太くんの顔がドアップ。
そこでまた、俺は固まる。
か、格好いぃ……………………っ!
自分の不甲斐なさより、慶太くん自身に感動。
とことん、馬鹿かもしれない。
「店先で呼んだんですけど、返事がなくて……………すみません、勝手にお邪魔しました」
「あ………………………」
独り言を喋りまくってたの、もしや見られた?
恥ずかしいぃ……………………。
「大丈夫ですか……………………?」
恥ずかしがる俺を、本気で心配する慶太くん。
相変わらず、慶太くんは優しい。
恥ずかしさと慶太くんの優しさで、俺の顔はやたらと熱い。
ゆっくりと、自分から離れていく慶太くんの腕を見ながら、俺は火照る顔を触った。
変だな。
なんだか、ドキドキしている気がする………………。
「青木さん?何処か、打ちました?」
慶太くんは、しばらく俯いたままの俺を気遣う様に、そのイケてる顔を近付ける。
息、かかりそう。
「だっ…………大丈夫だ…………よ、ごめん……………」
自分の手に当たる、慶太くんの服を軽く押し退け、俺は少しだけ視線を上へ向けた。
「ああ……………………良かったです」
目の前に飛び込む、慶太くんのホッとした表情。
慶太くん……………………!!
キュューン、としてしまった。
一気に、全身が逆上せるよう。
逆上せ……………………あれ、マジで頭がボヤッとする?
「あれ……………れ…………………あれ……」
「はっ!?ちょっ………………青木さんっ!?」
青木さんっ!!!
遠くに聞こえる、慶太くんの叫喚。
俺は、冗談抜きでぶっ倒れてしまった。
瞬く間に身体中の力が抜け、意識が飛ぶ。
そう言えば、最近まともに寝てない。
失恋してからこっち、早くそれを忘れたくて、休みなしに朝から晩まで働いた。
所謂、極度の過労。
でも。
正直、やっと店に来てくれた慶太くんを見て、張りつめていたものが切れたようにも思えた。
俺……………………慶太くんを、待っていたのかな。
「慶太……………………く……………ん」
「青木さん…………………っ!!」
救急病棟で気が付いた俺を、慶太くんは泣きそうな顔で見下ろしていた。
俺も、泣きそうになった。
薄れゆく意識の中で、思ったんだ。
慶太くんに、会えなくなったらどうしよう。
「ごめんね………………………慶太くん……………」
目を潤ませる慶太くんの頬へ手を伸ばし、俺は大切なものを知る。
『全部好き』
ううん。
俺の方が全部好きだよ、慶太くん。
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