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保健医の策略
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ちっ、と舌打ちをして上野君は掴んでいた僕の胸ぐらを離した。
誰、だろうか。
誰か来なかったらどうなっていただろうか。
ぶわっと一瞬、恐怖が僕の体を包み込んだ。
「邪魔すんなよなぁ、二ノ宮センセ」
上野君の言葉にはっと顔を上げた。
そこにいたのは保健室にいるはずの二ノ宮先生。
笑っていることの方が少ないその顔は、今は眉間にしわを寄せ、怒っていた。
「今回だけは見逃してやるから、早く出て行け」
「あぁ?何様のつもりだよ」
向かい合った二人は、まさに一触即発。
上野君に怖気付かない先生も凄いけど、先生に楯突く上野君も凄い。
「二ノ宮様だ。おら、早く出て行け」
うわぁ、なかなかイタイ返しをしましたね。
ちょっとね、ちょっとだけ引きました。
「ちっ。会長様よぉ、これで助かったと思うなよ?」
「っ、」
さっきまで先生を睨んでいた上野君が急にこちらを睨んで低い声で言った。
その言葉に、まさかまだあるのかと恐怖心がつのる。
何も言い返せない僕をじっと見ていた上野君を先生が押し出し、
バタンと閉じた扉の音に、安堵してしまう。
「大丈夫か」
「あ、はい。…どうかしたんですか?」
ポンっと肩に置かれた手にビクッとなるのを必死に抑えた。
「あー、一応ちゃんと手当てできてるか見に来たってところだな」
「そんなに不器用な方じゃないとおもいますけど…」
と言って僕は腕を少しまりあげた。
ガーゼもちゃんもして、うまくできたつもりだけど……
「…、下手くそだな」
ひどっ。
そんな哀れみの目で見ないでくださいよ!
「まさか、他のところもこんなんじゃないだろうな?」
「え、うわっ!」
腕の有様を見て、ほかのところの治療もできてないんじゃないのかと思ったらしい。
僕の服を一気に捲り上げた。
「…」
「あ、あの先生…」
沈黙が怖い。
服をつかんだまま固まっている先生の腕を早く降ろしてくれと押すけれど、離してくれない。
「お前…」
「え、あ、いや、これはさっきの傷で」
「他のやつなら騙されたろうな。
けど、俺はこれでも保健医だぞ。これが今回の傷じゃねぇってことは、見りゃわかる」
ぐっと、人差し指で古傷を押した。
「っ、」
痛くはない。
痛くはないのだ。
けれど、傷を見ると、思い出してしまう。
「…誰にでも、古傷くらいありますよ」
「これは異常だ」
う、と言葉に詰まる。
「紀田たちか、転校生か、F組か、親衛隊か」
言え、と目がいっている。
「…、なんでも、ありません」
「はー」
溜息を吐いた先生はいきなり古傷をぐっと強く押した。
「な、なに、して…」
そこから、今回できた傷を押す。
無言で、無表情でただ黙々と。その姿が、
父さんと、重なった。
「やめ、やめてくださ…とうさん!」
言ってから、ハッと気づいた。
先生を見ると、ニヤリと笑っている。
「決まり、だな」
あぁ、やられた。
最近は本当、ろくなことがない。
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